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特集

5G特集──社会課題解決・社会変革実現に向けたドコモの挑戦

5Gネットワーク

2020年3月にNTTドコモは5G商用サービスを開始しました。ドコモでは5G導入に際し、LTEで提供している機能・エリアを最大限活用することで、早期提供と安定した品質確保を実現しています。本稿では、5G商用サービスを提供するために実施した無線基地局装置、コアネットワーク装置の開発内容について解説します。

寒河江  佑太(さがえ ゆうた)† 1 /  澤向  信輔(さわむかい しんすけ)† 1
大渡  裕介(おおわたり ゆうすけ)† 1 / 清嶋  耕平(きよしま こうへい)† 1
神原  恵一(かんばら けいいち)† 1 /  高橋  匠(たかはし じょう)† 2
NTTドコモ† 1
ドコモ・テクノロジ† 2

まえがき

第5世代移動通信システム(5G)は高速・大容量、低遅延、多数端末接続の特長を有しており、動画・サービスなどコンテンツのさらなるリッチ化などへの対応に加え、従来では困難であった社会的課題の解決や新たな産業創出が可能となることにも期待が高まっています。
NTT ドコモは2019年9月に開始した5Gプレサービスに続き、2020年3月に5G商用サービスを開始し、2020年7月6日時点において契約者数が17万件を超しています。今後、 5G需要の増加が見込まれていることから、 端末ラインアップの充実、5G提供エリアの拡大を順次行っていきます。
本稿では、5G商用サービス提供を行うための無線基地局装置、およびコアネットワーク装置の開発内容について解説します。

5G向け周波数の概要

5Gにおいては、ユースケース、利用シナリオなどに応じたネットワークが求められており、技術面では、新たな無線技術〔5G NR(New Radio)〕の採用、既存の周波数帯に加え、より高い周波数帯を活用することなどが求められています(1)。
5G向け国内周波数帯として、3.7 GHz 帯(3.6〜4.1 GHz)、4.5 GHz 帯(4.5〜4.6 GHz)、および28GHz 帯(27.0〜29.5 GHz、 うち28.2〜29.1 GHzは非割当て)の3つの周波数帯が割り当てられています(表1)。特に前者2つの周波数帯がSub6帯、後者がmmW(millimeter Wave) 帯* 1と呼ばれています。
Sub6帯は、5G国内周波数において100MHz 幅/ 事業者と、LTEと比較して広帯域利用が可能であり、 かつ、LTE 3.5 GHz 帯と同様のカバレッジを実現することができます。一方でmmW 帯は、これまでLTE で利用してきた周波数とは大きく異なり、超広帯域の割当てにより数Gbit/s の高速伝送によるサービスをスポット的に展開することが期待されています。しかし、一般に高い周波数であるほど電波が飛びづらいため、既存LTE 周波数やSub6帯と組み合わせたヘテロジニアス・ネットワークを構築していく必要があります。加えて、高周波数帯においてはアンテナの小型化が容易であり、Massive MIMO(Massive Multiple Input Multiple Output)* 2 によるMIMO 技術の高度化を活用したネットワーク展開が期待されます。
さらに、国内では5G向け国内周波数帯において既存システムが運用されており、その既存事業者との共存・棲分けが重要です。特に3.7 GHz帯は衛星システム事業者が利用しており、衛星システムとのシステム間の干渉調整を実施しながらの展開となるため、5G早期展開に有力な周波数帯として4.5 GHz帯が注目されています(図1)。また、海外動向に注目すると3.7GHz 帯や28GHz 帯はすでに各国で利用開始がされており、端末の対応状況や今後のローミング対応の観点から、 今後の5G特有の高速大容量などのサービス展開において有力です。これらの周波数の特徴、既存事業者との共存、そして、グローバル動向などを踏まえ、それぞれの周波数帯の強みを最大限活用した商用展開を実施していきます。
これら国内周波数に対して、総務省による開設計画の認定(2)の結果、ドコモはSub6帯については3.6〜3.7 GHzおよび4.5〜4.6 GHz の合計200 MHz、mmW 帯は27.4〜27.8 GHz の400 MHz が割り当てられています。これにより、下りピークレートとして、既存LTE システムと組み合わせることでSub6帯では3.4Gbit/s、mmW 帯では4.1Gbit/s を提供可能です(表2 )。
Sub6 帯および28GHz 帯はTDD(Time Division Duplex)バンドとして割当てが行われていますが、周波数の有効利用の観点で、 隣接する携帯事業者間で同じ下り・上りリソース割当て(TDD Config* 3 )を利用しなければなりません。国内においては、 3G P P(3r d G e n e r a t i o n P a r t n e r s h i p Project)で合意されているTDD Config を基に、データトラフィック量や今後の5Gサービス予測をかんがみたうえで、図2 に示すTDD Configでの運用を実施することとなっています。 特に3.7 GHz 帯は隣接するLTE 3.5 GHzとの干渉を軽減させるために、同一タイミングにおいて、下り・上りリソースを使用するように設計されています(図2 )。 また、ドコモのみが獲得した4.5 GHz帯においては、ユースケースに応じた独自のTDD Configを設定し、周波数を有効に活用していきます。

 

*1 mmW帯:周波数帯域の区分の1つ。30 GHzから300 GHz の周波数であり、5Gで利用される周波数である28 GHz帯を含めて慣習的にミリ波と呼びます。
*2 Massive MIMO:非常に多数のアンテナを用いるMIMO伝送技術の総称。MIMOとは同一時間、同一周波数において複数の送受信アンテナを用いて信号の伝送を行い、通信品質および周波数利用効率の向上を実現する信号技術。
*3 TDD Config:TDDの上下スロットをどのように配分するかを決定するパラメータ。3GPP仕様にて規定されています。

5G商用開発

■5G基地局装置開発

5Gにおけるネットワーク構成を図3 に示します。5Gのサービス開始に向けドコモは、5G に対応したベースバンド(BB:Base Band) 信号処理部を集約した親局(CU:Central Unit)を、既存のBB処理装置である高密度BDE(Base station Digital processing Equipment)を拡張して開発し、加えて、 電波の送受信機能などを持つ5G 無線部(RU:Radio Unit)を新規に開発しました。 また、より多くのRU を1台のCU に収容するために、LTE において導入していたフロントホール分配装置(FHM:FrontHaul Multiplexer)(3)の5G 対応版である5G FHM を開発しました。これらの装置について概要を以下に解説します。
⑴ CU
⒜ 開発コンセプト
5G サービスのスムーズな展開に向け、 3G/LTE/LTE-Advanced に対応したBB 信号処理を行う既存の高密度BDEを最大限活用し、高密度BDE の一部のカード交換、および5G対応ソフトウェアへのアップグレードにより、既存装置を置き換えることなく、 工事期間や設備投資を抑えてエリア構築が可能なCUを開発しました。
⒝ CU基本仕様
今回開発したCUの装置外観例を写真1に示します。
これまでに述べたように、本装置は既存装置である高密度BDEの一部のカード交換により5Gに対応した機能が実現可能となっています。また、今後のソフトウェアアップグレードにより、 従来の3G/LTE/LTE-Advanced に対応したソフトウェアと5G対応ソフトウェアをそれぞれ搭載することで、 1台のCUにおいて、3Gから5Gの3 世代に対応したネットワークを構築することができます。
既存のLTE-Advanced ではドコモが提唱する高度化C-RAN(Centralized RAN)* 4 アーキテクチャ(4)を採用していましたが、 5Gにおいても本アーキテクチャに対応しており、CU・RU 間はフロントホールを介して接続します。このフロントホールは、ドコモを含めたオペレータ5 社により2018年2 月に設立したO-RAN(Open RAN)Alliance で標準化を進められ、異なるベンダ間の相互接続を可能とするO-RANフロントホール仕様に、5Gサービス導入当初から準拠しており、同仕様に準拠したCU・RU はベンダを問わず接続可能としています。また、基地局装置どうしを接続するための仕様についてもO-RAN標準仕様に準拠しており、5G対応のCU とLTE-Advanced 対応の高密度BDE について異なるベンダ間の接続を可能としています(5)。これにより、ドコモでは既存の高密度BDE のベンダに依存せずにCU を導入可能となり、既存資産を活かしつつスピーディに必要な場所に柔軟にエリア展開することが可能です。なお、CU1台につき、 6 本以上のフロントホール接続が可能となっており、 それぞれのフロントホールに対して接続先のRU を選択可能にしています。5G ではLTE-Advanced に比較してさらなる広帯域伝送に対応するため、フロントホール伝送レートを従来の最大9.8 Gbit/s から最大25 Gbit/s に拡張しながら、CU・RU 間の光張出し距離は従来の高密度BDEと同等を実現しました。
⑵ RU
⒜ 開発コンセプト
ドコモでは、5Gサービス導入当初から柔軟なエリア構築を可能とするため、2019年9 月の5Gプレサービス開始に合わせ、導入時の周波数帯である3.7 GHz 帯、4.5 GHz 帯、 および28 GHz帯にそれぞれ対応した、スモールセル用のRU となる小型低出力張出しRU(SRU:low power Small Radio Unit) を開発しました。また、5Gエリアの早期拡大に向け、郊外などにおける効率的なエリア化の実現を可能としたマクロセル用のRUである張出しRU(RRU:Regular power Radio Unit)についても開発しました。
5G機能の1つとして、他セルへの干渉低減を図り、ユーザ体感品質の向上が期待できるBeamforming* 5 機能があります。本機能に対応したアンテナ・5G無線部一体型の装置(アンテナ一体型RU)を開発するとともに、 既設の3G/LTE/LTE-Advanced 向けの無線装置(RE:Radio Equipment)に本装置を併設できるようにスペースなどが限られた個所に対して柔軟に設置可能とすることを目的として、アンテナ・5G無線部分離型の装置(アンテナ分離型RU)を開発しました。
⒝ SRU基本仕様
SRU は、これまでに述べたように柔軟なエリア構築を可能とすることを目的とし、 5Gプレサービス開始当初から、3.7 GHz帯・4.5 GHz 帯・28 GHz 帯にそれぞれ対応したアンテナ一体型SRU、および3.7 GHz帯・4.5 GHz帯にそれぞれ対応したアンテナ分離型SRUを開発しました(写真2 )。
アンテナ一体型RU については、 Beamforming機能を実現するアンテナパネルを具備しています。3.7 GHz 帯・4.5 GHz 帯では標準仕様上最大8 ビーム、28 GHz帯では標準仕様上最大64ビームであり、ドコモで利用するTDD Config などに応じた送受信ビーム数にてエリアを形成可能としています。また、送受信ブランチ数は3.7 GHz帯・4.5 GHz 帯では428 GHz 帯では2 とし、 1台で前者は最大4 レイヤ、後者は最大2 レイヤのMIMO送受信が可能です。
アンテナ分離型SRU については、設置性を考慮して省スペース化を目的とし、従来のRE 同様に無線部のみの構成としており、 SRU とアンテナを別の場所に設置することが可能です。なお、同周波数帯に対応したアンテナ一体型SRU と比較して装置容積を低減し、6.5 ℓ以下を実現しました。アンテナ分離型SRU では、Beamforming 機能には非対応となっているものの、同周波数帯のアンテナ一体型SRU 同様に送受信ブランチ数は4 としています。
⒞ RRU基本仕様
RRU は、5G エリアの早期拡大に向け、 SRUと比較して高出力の装置として、5Gサービス展開に合わせて開発されました(写真3 )。
5Gの広帯域幅をサポートするために、従来のマクロセル用RE(RRE:Remote Radio Equipment)と比較して装置サイズが大きくなる傾向となりますが、最新のデバイス動向をかんがみ、早期に省スペース化・軽量化が期待できるアンテナ分離型を先行開発して導入しました。最大送信出力はマクロセルのエリア半径を考慮し、36.3 W/100 MHz/ ブランチ* 6 としました。また、送受信ブランチ数は4 としており、アンテナ分離型SRU と同様のMIMO 送受信レイヤ数を実現しています。
ドコモでは、引き続きアンテナ一体型RRU についても導入予定であり、今後は設置場所などをかんがみながらそれぞれの機種を活用して柔軟に5Gエリアを構築していく予定です。
⑶ 5G FHM
5G FHM は、フロントホール上の無線信号を最大12分配、合成する機能を持つ装置であり、RRU同様に5Gサービス展開に合わせて開発されました(写真4 )。
5G FHM を用いない場合は、 1台のRU ごとに1セルとして収容しますが、5G FHM を用いることにより、最大12台のRUを1セルとしてCU に収容可能となり、5G サービス開始当初、必要な無線容量が少ない場所のエリア化において、より多くのRUを1台のCUに収容することが可能です(図4 )。また、 従来のFHM 同様、全RU が同一セルの無線信号の送受信を行うため、RU間の干渉や、 RU 間をまたがるハンドオーバ(HO:Hand Over)制御の発生を抑止することができます。なお、5G周波数帯である3.7 GHz帯・4.5 GHz 帯・28 GHz 帯すべてに対応しており、それぞれの周波数帯の用途に応じて柔軟にエリア構築が可能となっています。

 

*4 高度化C-RAN:ドコモが提唱する新しいネットワークアーキテクチャで、LTE-Advancedの主要な技術であるキャリアアグリゲーション技術を活用し、広域エリアをカバーするマクロセルと局所的なエリアをカバーするスモールセルを同一の基地局制御部により高度に連携させる無線アクセスネットワーク。
*5 Beamforming:送信信号に指向性をもたせることで、特定方向の信号電力を増加・低下させる技術。複数のアンテナ素子(RF装置)の位相制御により指向性を形成するアナログビームフォーミングと、ベースバンド部において位相制御するデジタルビームフォーミングが存在します。
*6 ブランチ:本稿では、アンテナおよびRF送受信機の総称。

■5G無線アクセスネットワーク対応

5Gサービスを実現するRANの構成と、無線アクセスネットワーク技術としてLTE-NR Dual Connectivity * 7、Beam Management 技術、NR高速化対応に関する技術概要を解説します。
⑴ RANの構成
5G商用サービス展開にあたっては、ドコモはNRの特徴の1つであるノンスタンドアローン運用にてサービスを提供しています。 ノンスタンドアローンとは、NR単独ではエリア提供せず、LTE/LTE-Advanced のエリアをアンカーとして利用し、サービスを提供する運用形態です。図5 に示すように、NR のノンスタンドアローン運用においてeNB (evolved NodeB)* 8 は、NR を提供する基地局であるgNB* 9 とはX2*10インタフェースを用いて接続します。また、eNB とgNB はEPC(Evolved Packet Core) とS1インタフェースを用いて接続します。ノンスタンドアローンではLTE をアンカー*11としているため、接続性に関してはこれまでと同等の品質レベルを実現しつつ、LTE 装置との併用による既存ネットワークインフラの活用により早期に商用化を実現しました。またeNBとgNB間の接続に際してドコモらが主導したO-RAN X2仕様に準拠し、LTE とNR の、異なるベンダ間における相互接続を可能としました。すでに展開されているLTE エリアに対して5Gエリアを迅速かつ柔軟に展開することもできるようになりました。
今後提供予定のNRのスタンドアローンは、 gNB のみでサービス提供を可能とするもので、RANは新しいコアネットワーク(5GC: 5G Core network)に接続します。gNB 間はXn インタフェースを用いて接続し、 gNB-5GC 間はNG インタフェースを用いて接続します。
⑵ LTE-NR Dual Connectivity
前述のとおり既存のLTE/LTE-Advanced とNRとを組み合わせてサービス提供するノンスタンドアローン構成において、UEに対してLTE / NR 両方で同時に通信するアーキテクチャがLTE-NR Dual Connectivity です。LTE-NR Dual Connectivity では、 LTE/NR それぞれの無線リソースを同時に送るSplit Bearer*12が規定されおり、最大5 つのLTE キャリアとNR との同時送信を実現し、高速化や柔軟な5G商用サービス展開を可能としています。
LTE-NR Dual Connectivity の、LTE 基地局がMN(Master Node)となる運用においては、NR側の帯域が大きくなるに連れてLTE 基地局側でMCG(Master Cell Group)Split Bearer を行う必要があり、 そのため、NR装置に比べ能力に制限のあるLTE 基地局装置側の増強が必要であり、それに伴う装置開発・運用コストの増加につながります。そこでLTE 基地局装置の増強を抑えつつ、その装置能力によるスループットの制約を回避するために、LTE-NR Dual Connectivity ではユーザデータの分岐点をNR 装置であるSN(Secondary Node)*13 で設定できるようにSN terminated split bearer、 およびSN Terminated MCG Bearer が仕様化されています。SCG split bearer はユーザデータをSN のキャリアに伝送しつつMNのキャリアにも転送を行い、 SNおよびMN同時にデータをユーザに伝送できるようにする方法です。これにより高速化通信を実現しています。またSN terminated MCG BearerはNRのエリア外においてもSN からデータ転送を行えるようにする方法であり、 これにより安定的な通信を実現しています。
⑶ Beam Management技術
NR では新たにBeam Management 技術を採用しています。前述のようにアンテナ一体型RUについては複数ビームを形成するような構成となっています(図6 )。
FR1(Frequency Range ) ではBB 信号に位相回転を与えることによりビーム形成するDigital beamforming を採用し、FR2 (Frequency Range 2) ではRF(Radio Frequency)信号に位相を与えることによりビーム形成するAnalog beamforming を採用しています。NR接続開始時の最適ビーム選択処理および、UEの移動などによる無線品質変更に伴いビームを変更するビーム切替え処理を具備し、通信するUEの位置に応じた最適な送受信ビームを使用することで、 高周波数帯においてもカバレッジの確保を実現しています。また、UEの位置に対してビームを向けることにより、不要な方向への電波の放射が抑制され、セル間の干渉の抑圧効果も期待できます。
⑷ NR高速化対応
5G ではLTE/LTE-Advanced とNR とのDual Connectivity にてNR も同時に利用することにより、さらなる高速通信が実現されます。現在ドコモではLTE/LTE-Advanced にて、下り通信は5 つのコンポーネントキャリアをキャリアアグリゲーションすることにより下り最大1.7 Gbit/sのサービスを提供していますが、ドコモの5Gでは導入当初からLTE/LTE-Advanced の5 つのコンポーネントキャリアとNR のDual connectivity を実現しており、NR として3.7 GHz 帯または4.5 GHz 帯を利用する場合は最大3.4 Gbit/ s、NR として28 GHz 帯を利用する場合は最大4.1 Gbit/sを実現しています。
また、上り通信においては、28 GHz帯において、合計200 MHz( 2 コンポーネントキャリア)をキャリアアグリゲーションで同時利用することに加え、 2×2 MIMOの導入により、合計480 Mbit/sを実現しています。
さらに、今後、下り通信においては3.7GHz帯と4.5 GHzのキャリアアグリゲーション、上り通信においては28 GHz帯における400 MHz( 4 コンポーネントキャリア)のキャリアアグリゲーションによりさらなる広帯域利用による高速化をねらいます。

 

*7 Dual Connectivity:マスターとセカンダリの2 つの基地局に接続し、それらの基地局でサポートされる複数のコンポーネントキャリアを用いて送受信することで、広帯域化を実現する技術。
*8 eNB:LTE無線を提供する無線基地局。
*9 gNB:NR無線を提供する無線基地局。
*10 X2:3GPPで定義されたeNodeB間のリファレンスポイント。
*11アンカー:制御信号もしくは、ユーザベアラの切替え基点となる論理的ノード地点。
*12 Split Bearer:Dual Connectivityにおいて、マスターとセカンダリの両方の基地局を介して送受信されるベアラ。
*13 SN:Dual Connectivity中の端末に、MNの無線リソースに加えて、追加で端末に無線リソースを提供する基地局。 LTE-NR Dual Connectivity において、SN は、MN がLTE 基地局(eNB)の場合はNR 基地局(gNB)、MNがNR 基地局(gNB)の場合はLTE基地局(eNB)がなり得ます。

■コアネットワーク装置開発

国際的な標準化団体である3GPPにおいては、5Gの提供に向けた複数のマイグレーションのアーキテクチャが規定されています。 3GPPに規定されているアーキテクチャの一覧を図7 に示します。Option がLTEで提供しているアーキテクチャであり、5Gを提供するにあたりOption 2 〜5、 7 の、どのアーキテクチャを採用するかは各オペレータの判断になります。ドコモは前述したとおり、 5G導入当初においてはLTEで商用運用しているEPC を拡張することでNR と接続し、 5G を提供するOption 3 アーキテクチャを採用しています。 これにより、LTE/LTE-Advanced で展開済みの安定した品質を担保可能としつつ、早期に5Gの商用提供を実現しました。なお、5G導入当初は世界的に見て多くのオペレータがOption 3 を採用しています。
今後は新しいコアネットワークである5GC の導入も含め、将来のマイグレーションに向けた検討を続けていきます。
⑴ Option 3xアーキテクチャ
前述のとおり、装置開発・運用コストを抑制するためのSCG split bearer によるユーザデータの転送処理を行っています。つまり制御系信号のやり取りはEPC-eNB 間で行い、ユーザデータのやり取りはEPC-gNB間で行っています。これはOption 3x として標準上規定さています。
EPC はeNB とのS1インタフェースおよびUE とのNAS(Non-Access Stratum) インタフェースを拡張することでNRを収容可能となるため、コアネットワーク装置への影響を軽減でき、安定した品質と早期導入を両立可能なことが最大の特長です。
⑵ 高スループット対応
5Gでは最大で4。1 Gbit/sの下りスループットを提供し、今後もより高速・大容量通信を実現するために開発を続けていきます。一方、EPC はさまざまな能力の装置が混在しており、5Gの求めるスループットの提供が困難な装置も存在します。これらをかんがみ、 EPC の中でデータ転送処理を担うS/P-GW (Serving Gateway/PDN Gateway) を選択する際に、5Gのスループットを提供可能なS/P-GWを選択する開発を実施しました。
具体的には、MME(Mobility Management Entity) でS/P-GW を選択する際にTA (Tracking Area) やAPN(Access Point Name) をキーにDNS(Domain Name System)を引くことで、応答に含まれるレコードからS/P-GW を選択していますが、 DNSの応答に含まれるサービスパラメータ(network capability) に5G 能力を示す値(+nc-nr)を追加しました。5Gユーザに対しては、この値に応じて5Gのスループットを提供可能なS/P-GW を選択することで高速通信を実現しています。
⑶ 低遅延ネットワーク
5Gの商用開始と同時にドコモオープンイノベーションクラウドの提供も開始しました。 ドコモオープンイノベーションクラウドはMEC(Multi-access Edge Computing) の1つの形態として提供しており、コアネットワークを含めたコンピューティングリソースを端末に近いところに配備することでEnd to Endの通信遅延を短縮することができます。さらに接続端末とクラウド基盤間の通信経路を最適化することでネットワーク伝送遅延を短縮する「クラウドダイレクト™」も提供します。

あとがき

本稿では、5G商用サービス提供を行うための無線基地局装置、およびコアネットワーク装置の開発内容について解説しました。
ドコモは5Gを通じてさまざまなパートナーと協創し、豊かな社会の実現に貢献するとともに、今後も先進的で高度な技術開発を進めていきます。

※ 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.28 No.2、 2020年7月)に掲載された内容を編集したものです。

■参考文献
(1) https://www.soumu.go.jp/main_content/000567504.pdf
(2) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_ 02000378.html
(3) 藤井・諏訪・鳥羽・戸枝:“3.5 GHz 帯TD-LTE 導入に向けた基地局装置の開発,”NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル,Vol. 24, No. 2, pp. 8-13, Jul. 2016.
(4) 吉原・戸枝・藤井・諏訪・山田:“高度化C-RAN アーキテクチャを実現する無線装置およびアンテナの開発,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol. 23, No. 2, pp. 19- 24, Jul. 2015.
(5) https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2019/09/18_01.html

問い合わせ先

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E-mail  dtj@nttdocomo.com