特集
「これからのつなぐ」を創る
- SOCIAL INNOVATIONパートナー
- 見えない壁と赤い線
- これからのつなぐを創る
本稿では、最新技術の社会実装による豊かな社会の実現に向けた、NTT東日本グループがめざすSOCIAL INNOVATION パートナーとしての世界観(これからのつなぐを創る)と、実現に向けた「自らの変革」の取り組みや「他の企業様」や「社会」とともに地域の新たな価値創出に取り組んでいる事例を紹介します。
星野 理彰(ほしの りあき)
NTT東日本 代表取締役副社長
次の時代のNTT東日本グループへ
私たちNTT東日本は「SOCIAL INNOVATIONパートナー」をめざし、新たな技術を、世の中のお客さまに役立つよう社会実装すべく、取り組みを進めています。私たちは、これまでネットワークを中心にさまざまなサービスを提供してきましたが、こういったサービスを次世代のデジタル基盤へ変えていくことが求められている一方で、これまでネットワークだけを提供していた時代から、より多くのお客さまの生活を変えていくことができる時代になりました。NTT東日本も、クラウドやデバイスなどの通信の周辺領域まで貢献できるようになってきており、またその先のエネルギーや農業、まちづくりなどの新しい領域まで貢献できるのではないかと考えています(図1)。私たちNTT東日本の強みは何か。それは、これまで多くの設備を維持し、提供してきたエンジニアリング力です。メタル回線は数100万回線あり、光回線は1000万回線を超えています。私たちは、毎年100万以上の回線を開通・廃止し、そして4000人以上がオンサイト保守に携わっています。このエンジニアリング力を、これまでオフィスだけであったものを、工場や、農場などの有線では提供困難なところも含めて無線や衛星を用いて、周辺領域や新しい領域へ提供していきたいと考えています。
そのために、私たちは既存領域で効率化を進め、周辺や新しい領域へ1000人以上のメンバーを動かし、2023年10月に新たな体制を整えました。また、先端テクノロジー部およびオープンイノベーションセンタも新たに創設しました。私たちは、NTT研究所が開発した技術を、自分たちが使うだけではなく、より今の時代に合った役に立つ技術としてお客さまへ提供していきます。私たちは、社会貢献可能な会社になるために、「自らを磨く」「他の企業様と取り組む」「社会とともに取り組む」の3つの軸で取り組みを行っていきたいと思っています。
「自らを磨く」
私たちはこれまでの歴史の中で、「自らを磨く」、このことを絶え間なく続けてきました。スマートメンテナンスカー(MMS:Mobile Mapping System)や、光ファイバを用いたセンシング技術などの先端技術を取り入れることで、改善を行ってきました。しかし、新たな技術の導入には、見えない壁が存在しています。見えない壁は、私たちだけでなく、すべての企業で同じことがいえると思います。私たちは業務改善により一定のレベルに達しているといえますが、新しい技術を導入するには、仕事のやり方を変えないといけません。仕事を変えようとすると、身の回りに発生するリスクが不安になります。この見えない壁の壊し方の1つは、新しい分野に取り組む、または組織を変えることです。これにより一時的に非効率になりますが、不安が取り除かれ、壁を壊すことができます。しかし、すべてが同じように上手くいかないことがあります。それは既存の目標が定まったままだから動かない、あるいはその目標が曖昧であるからです。もう1つの壁の壊し方は、この問題を解くために新たな目標をセットすることで、目標に向けた新たな導線「赤い線」(図2)の上を歩くことです。これにより知らない間に壁を壊すことができると考えています。
故障の早期影響把握・処理効率化(デジタル技術の活用)
私たちは特別な会社でなく、普通の会社や自治体と同じように悩みを抱えています。その悩みを、私たちの会社の中で解決することが重要です。自ら課題解決した実績があるからこそ、皆様からSOCIAL INNOVATIONパートナーとして選んでいただけると考えています。
私たちが進めている改革は、通信を守るための基本的な業務です。これまでアラームを分析し、自動復旧する仕組みを進めてきました。また、サービスが継続するように設備を構築しているので、装置アラームが出ても、お客さまに影響が出ないと考え運用しており、お客さまに影響を出さないようにしてきました。このため、ネットワークの運用目標に曖昧さがありました。
私たちは何をしたか、それは速やかな情報発信と故障対応の自動化です。2023年4月3日の大規模故障を契機に、大規模故障を30分以内に広報しようと取り組みを始めました。取り組みの中で分かったことがあります。広報するためには、大量のアラームを収集・分析する仕組みや、トラフィックやSNS情報の収集・分析が必要です。幸いなことに、データを収集・分析する手法は、世の中にたくさんあります。当たり前のことではありますが、これまで収集・分析の観点が違っていたため、取り組んでいなかっただけなのです。
同様に故障対応の自動化率を上げることが品質を上げることだと導線を定義しました。複雑系故障や未経験の故障など、対応の自動化困難なことは数多くあります。しかし、一度経験した故障は対応自動化することができます。また故障対応自動化率を上げるためには、大量データを分析するAI(人工知能)が必要であることにも気が付きました(図3)。
データ活用基盤(OASIS)の構築
データ基盤も新たな取り組みが必要です。顧客系データはすべて1つのデータとして蓄積されている一方で、設備系のデータは、オペレーションのために個別最適化され、データが分割されていました。そのため、設備データの分析には、一斉に多くのシステムに新たなAPI(Application Programming Interface)の開発を入れ、サーバを増強しなければならず、開発には莫大な費用が必要です。私たちは、データの2次利用を前提に、費用をかけることなく個々のシステム開発に合わせ改善を入れる周到な段取りを経てデータを集めることを実現しました。これによって、例えば、行動履歴と作業工程のデータを組み合わせることで、あるNTTビル内装置の故障が発生した場合に、誰がもっとも近くで作業しているかが分かったり、システム間のデータ連携で、より詳細な分析が可能となりました。
業務内容の再定義(オンサイト融合)の取り組み
2023年10月に、所内と所外のオンサイト業務の一体運営化に向けて、組織改編を実施しました。これまでのノウハウを失わせずどのように複合化の範囲を広げていくか、まさにNTT東日本としての最大のチャレンジです。専担技術と複合対象の技術で分けながら周辺や新しい領域に向けてチャレンジを行っています。このチャレンジは、当然ながら一時的に非効率性を生みます。しかし、これが非効率を回避するためにリモートで支援サポートする新たな技術を受け入れる土壌をつくります。また、熟練者のスキル継承は、人から人への継承では限界がきています。そのためには、AIの活用が有効ですが、AIの学習のためにはデータ蓄積が必要です。これまでの電話による遠隔支援作業を、ツールにより文字データ化したり、また現場作業を映像データ化することにより、データが蓄積され、AIの学習に活用することができると考えます。既存の業務効率化を進めるときの重要なポイントは、効率化によって人員が減少する中で、災害時にどう対処するかということです。過去の台風災害では、通常時の50倍の故障が発生し、約600名の支援体制が必要になりました。
これに対する1つの対策は技術を突き詰めることです。例えば、災害が発生した際に必要となる電柱点検業務を、MMS等により効率化が可能です。しかし、災害時には機械が動かなくなる可能性があるので、作業者の確保も必要になります。
NTT東日本で実施する現場力向上フォーラムでは、現場から遠ざかっている人を対象に、災害を想定した昇柱作業を競技に加えました。競技を実施して安全に昇柱作業ができなくなっている人が想定以上に増えていることが分かりました。私たちは故障受付窓口の「113」を含め、さまざまな機会を使って非常時に対応可能な人員の確保・育成にこれからも取り組んでいきます。
CXの取り組み
現在、NTTグループ全体でCX(Customer Experience)を上げる活動を推進しています。取り組みをして分かったことがあります。それは、CXの向上はお客さまのためであると同時に、働く社員のためでもあるということです。CXをきっかけに、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実施しEX(Employee Experience)を上げていきます。ビジネス(B)を通して、お客さまを私たちのファン(F)にします。B、C、D、E、Fと流れが続いていきます。コールセンタの事例では、CX向上に向けて月10万件を超えるお客さまの声をデータ化し、生成AIによる文章の要約と、ネガティブ・ポジティブの分類をしています。最後は人の手により分析を行っていますが、これまでできなかった分析ができるようになりました。
この取り組みで重要なのは、経営企画部のメンバーがこの取り組みをしているということです。経営企画部のメンバー自らがAIを勉強し、技術者に助けを借りながら、取り組んでいます。まさに導線「赤い線」の上を歩くために努力をしているのです。設備のメンバーも同様に取り組んでいます。これまで曖昧さがあったネットワークの体感品質を数値化しました。数値化された品質を分析すると、公平制御機能などによりWebサービスの利用レベルでは体感品質は守られていることが分かったのですが、体感品質を数値化する過程で変化したことがあります。それは、メンバーが、自ら評価技術を探求し始め、NTT研究所の技術を活用し始めたことです。また、これまで分からないと言っていたメンバーさえも、導線を引いた瞬間に自ら行動し始めました。これこそが、見えない壁を壊すために必要なことだと考えています。
「企業とともに事業領域の拡大に取り組む」
企業単体でできることには限界があります。私たちは「他の企業様と取り組む」ことを始めています。具体例を挙げると、ネットワークの取り組みです。私たちのREIWAプロジェクトでは、モバイルネットワークやクラウドなどを結びつけ、効率的なネットワークと地域エッジを提供し、その上にさまざまなアプリケーションをのせようとしています。これらの実現には、他の企業様の協力が必要です(図4)。
また、私たちは全国に効率かつ低遅延のネットワークをAPNベースでつくりたいと考えています。しかし、私たち単独でつくったネットワークでは使われないものになってしまいます。データセンタ事業者様は最短経路のネットワークを求めており、私たちはデータセンタを含めたコネクティビティデータセンタ網をつくりたいと考えています。
私たちの目標は、ネットワークを任せてもらうことよりも、次世代のネットワークを皆様とともにつくっていくことです。なぜなら、アジアのデータセンタ需要の高まりにおいて、私たちNTTではなく、日本が選ばれることが重要だからです。そのために、多くの企業と協力してデータセンタ構築に向けた、最適なネットワーク構築をめざしています(図5)。線路敷設基盤の利用を希望される他事業者様には、コンサルすることも始めております。
私たちは、先駆的にローカル5G(第5世代移動通信システム)を始めたこともあり、No.1シェアでスタートさせていただきました。しかし、無線分野においても当然ながら私たちだけではできません。
現在、共創プロジェクトという取り組みを始めています。これは、基地局、デバイス、ソフトウェアなどの企業と業界全体で連携を強化する取り組みです。特に海外では使用する電波の周波数が異なるため、この連携が重要だと考えています。
私たちにできることは、インフラ投資とともに、技術者の育成を先行して行うことです。グループ会社の助けを借りながら、多くの企業と連携していける技術者を育成し、さまざまな取り組みを進めています。
社会とともに社会インフラ課題へ取り組む
私たちはNTTアノードエナジー、NTTインフラネット、NTTファシリティーズなどのグループ会社と新しい領域の取り組みを進めています。取り組みの中で分かったことは、「社会とともに取り組む」ということです。
NTTアグリテクノロジーの事例は、まさにその典型です。これまで私たちは農業ハウスの施工を担当しましたが、メンバーの中には回線のメンテナンスマスターとして10年間表彰を受け続けたメンバーがいました。彼は周囲を牽引し、あっという間にリーダーになりました。業務は異なりますが、本質的なノウハウや素養は活かされるのだと感じました。また、私たちが業務に入り込み、内製でつくり上げたデジタルファーマーシステムをNTTアグリテクノロジーへ提供しています。このシステムは期待されるソフトウェアのトップ10に選ばれました。遠隔栽培の支援や生産指導、農業用ロボティクスの実現も同様です。私たちが農家の皆様の中に入り、AIでいうファインチューニングを行うからこそ、農家の皆様から注目されるNo.1企業に選んでいただけたと考えています(図6)。
防災分野の取り組みは、非常に力を入れています。能登地震のような経験から、社会貢献を目標に取り組みを行っています。現在、東京大学の先生方のご協力を得ながら、各自治体の災害対策のアセスメントを行っており、このアセスメントにより、避難所の運営や備蓄管理などに課題があることが分かりました。特に、避難所開設の判断は難しい課題です。2022年に発生した山形県の置賜地域の豪雨の事例では、避難所が開設されたのは大雨が降り始めてから5時間後であり、開設が遅いのではないかと指摘されました。
私たちはウェザーニューズ様と連携し、地域のオペレーションセンタを組織して情報提供する取り組みを始めました。また、避難所の電子錠や河川監視でもソフトウェア会社様と協力して取り組みを進めています。私たちはさまざまな仲間をつくり、共に成長してきた企業です。この取り組みを他の地域へも展開し、さらなる貢献をめざしていきたいと考えています。
再生エネルギー分野の取り組みについては、難しい取り組みではありますが、多くの要望をいただいています。現在、東京電力様との提携したTNクロスとPPA(Power Purchase Agreement)モデル*の導入を行っていますが、これだけでは本当の貢献にはなりません。そのため、風力を含むさまざまな発電方法の相談や、米沢エリアで地域電力会社様と小売り事業のコンサルティングについても取り組みを開始しています。
こうした取り組みを積み重ねることで、初めてお客さまに信頼していただける存在となり、私たちがめざすことを共に広げることができると考えています。
* PPAモデル:公共施設などに太陽光発電設備を導入し、売電側と買電側が売電契約を直接締結するモデル。
新たな価値創造に向けて
映像の分野では、最初は2人で社内の安全教育や技術ノウハウを映像にすることから始めました。その後、数100人規模のチームとなり、文化財の保護やe-Sportsの映像配信など、社会課題に取り組むようになりました。最近は太陽光の電源ケーブルが盗まれるという社会課題に対し、映像を分析するAIの開発にも取り組んでいます。ドローンやソフトウェアの分野も同様です。社内でドローンパイロットを募ったところ、約500人が農薬散布やドローンスクールの講師などにチャレンジしています。ソフトウェアの分野においては、ベトナムにNTTe-MOIという会社を立ち上げました。ゼロからのスタートですが、社会実装に向けて、約150人の全員が覚悟を持ってスタートしてくれています。
「これからのつなぐ」を創る
このように、私たちは自ら変革を遂げ、世の中とともに育て、社会に実装していくことをめざしています。こういった取り組みこそが、NTT東日本が「SOCIAL INNOVATIONパートナー」として選んでいただくうえで、必要なことだと考えます。
私たちが創り出す「これからのつなぐ」は、新しいものだけではありません。私たちが提供するメタルの回線は、年々減少しており、メーカ様や工事会社様をはじめとしたさまざまなステークホルダーの皆様のご協力がなければ維持することができません。「これからのつなぐ」は、新しいものにつなげるための変化を、そういったステークホルダーの皆様とともに、違和感なく行っていく方法や、皆様と新しい関係を築いていくことも含まれています(図7)。今後もNTT東日本をよろしくお願いします。
星野 理彰
問い合わせ先
NTT東日本
ネットワーク事業推進本部
設備企画部 設備計画部門
TEL 03-5359-7484
E-mail setsuki-bp-cm-gm@east.ntt.co.jp
私たちの会社は、多くの皆様によって支えられています。共に成長し、共に次の時代に活躍する会社へとつなげていきたいと考えており、新たな絆を築いていけるよう、私たちは挑戦を続けていきます。