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2025年7月号

特集2

つくばフォーラム2025に見るアクセスネットワークの研究開発

世界を変える価値創造を 持続可能な社会を支えるアクセスネットワーク技術

NTT アクセスサービスシステム研究所は、線路、土木、伝送、無線、オペレーションの5つの分野でアクセスネットワークに関する研究開発を行っています。新たな価値創造とグローバルサステナビリティの実現に向け IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)/6G(第6世代移動通信システム)の具現化を加速するサービスの多様化、運用のスマート化、新ビジネス領域の開拓に資する研究開発を推進しています。本稿ではこれらの最新技術を紹介します。

海老根 崇(えびね たかし)
NTTアクセスサービスシステム研究所 所長

はじめに

25年以上前から現在までを振り返ってみますと、NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)はFTTH(Fiber To The Home)サービスの推進に向けて、まだ世の中にないさまざまな光通信に関する技術の研究開発に邁進してきました(1)。そしてFTTHをはじめとする光通信は、携帯電話の普及とともに私たちの生活をより便利で快適にし、大きな変革をもたらしました(2)。通信は、つながることが当たり前となり、人々の生活に不可欠な社会インフラの1つとなりました。
そしてNTTは2019年にIOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想を掲げ、その構想を実現するべく研究開発を進めています。NTTは新たな価値の創造とグローバルサステナブル社会を支える企業をめざしており(3)、6G(第6世代移動通信システム)も見据えながら、AS研一丸となってIOWN/6Gの実現へ向けた研究開発を推進しています。
取り巻く環境の変化として重要な観点の1つがAI(人工知能)の急速な発展です。グローバルトレンドが目まぐるしく変化し、将来の予測が困難な時代において、地球のサステナビリティに向けた課題を解決するためにAIの活用が大きく期待されています(4)。私たちのNW(Network)運用に、どうAIを活用するのか「AI for NW」の研究開発を進めるとともに、AIをより効率的かつ効果的に活用できるNWはどうあるべきか「NW for AI」の研究開発を進めることも重要です。今後もAS研においてAIにかかわる研究開発を推進していきます。
また、日本に視点を移すと高度成長期に多くが建設されたインフラ設備の老朽化が問題となっており(5)、私たちの通信設備も例外ではありません。さらに日本の高齢化と人口減少に伴う労働人口の減少が予測されており(2)、気候変動に伴う自然災害も増加しています(6)。そこで通信インフラに対する点検や維持・メンテナンスを徹底的に効率化するスマートインフラの研究開発も推進してきました。今後は通信インフラに対して蓄積してきた技術・ノウハウを他のインフラ設備に対しても展開していく取り組みを行い、社会インフラ全体のサステナビリティに貢献していきたいと考えています。そしてこの技術・ノウハウを世界に通用するものに育てていくことをめざしています。
そのような背景を踏まえAS研の研究開発方針は、図1に示すように「最先端のアクセスネットワーク技術の研究と実用化により新たな価値創造に挑戦しグローバルサステナブルな社会に貢献します」をミッションに掲げ、ロバストネットワーク、環境負荷低減、安全に関する取り組みを強化しながら、グローバルな視点と新規技術の活用を意識し、アクセスネットワークの5分野(線路、土木、伝送、オペレーション、無線)の最先端の要素技術の研究開発に取り組んでいます。
以降では、具体的な要素技術を、「サービスの高度化・多様化を支える技術」「運用を抜本的にスマート化する技術」「新ビジネス領域を開拓する技術」に分けて紹介します。

サービスの高度化・多様化を支える技術

図2は光および無線の高速大容量化・低遅延化に資する技術、サービスの多様化に資する技術を示しています。
図2(a)のネットワークのさらなる高性能化に貢献する光線路技術は、1本の光ファイバ内に複数のコアを持つマルチコア光ファイバケーブルを用いて超大容量伝送のペタビット級の光線路を実現します。海底および陸上ネットワークにおいて心線需要が飛躍的に増大している中、既存設備スペースにおける伝送容量の持続的な拡張が求められています。この技術では、既存光ファイバと同じ径である125μmのクラッド径で互換性を維持しつつ、4倍以上の高い空間利用効率を実現します。さらにファイバ構造設計・製造工程を工夫することで、低損失で伝送できる波長範囲をO-bandまで拡大できることをめざします。これにより広い波長範囲の光を低損失に伝送できます。また、マルチコア光ファイバの一括増幅技術により環境負荷低減を実現します。
図2(b)の遠隔制御対応APN(All-Photonics Network)トランシーバ構成技術は、多様なサービスのオンデマンドかつ迅速な提供と効率的な運用保守を実現する技術です。特にデータセンタ間の低遅延な接続サービスや、Beyond5G(6G)時代における無線アクセスネットワークの構築において、お客さまの需要の変化に柔軟かつ迅速に対応することが求められます。この実現のため、お客さまの通信信号(主信号)のフォーマットやプロトコルに依存せず、主信号用光ファイバ内に重畳する監視制御経路を形成し、遠隔に配置したコントローラからパス設定、開通、監視制御する方式と、その実装技術、省電力化技術の研究を進めています。本技術の研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の助成事業(JPJ012368G50201)により得られたものです。
図2(c)のマルチ無線プロアクティブ制御技術Cradio®は無線ネットワークの状況の把握・予測、制御をすることで、無線通信を柔軟につなぎ続けます。通信断が許容されないアプリケーションの拡大に伴い、無線通信のさらなる高品質化が期待されています。Cradio® は事業現場での実証実験をとおした需要に即した技術の高度化を進めており、高速大容量化・低遅延化・カバレッジホール解消などの多様な要求・要件が混在するユースケースに対応するため、予測・把握・制御技術の対象範囲の拡大に取り組んでいます。自動運転やスマートシティ、スマートファクトリーなど先進的なユースケース実現を複数無線アクセスの高度な組合せで支えることをめざしています。また、6G時代の先取りとなる無線センシング技術を活用し、セキュリティ支援やサイバー空間融合への適用、センシングデータや環境変化追従による無線機器制御の高度化も視野に研究開発に取り組んでいます。
図2(d)のミリ波分散MIMO (Multiple-Input and Multiple-Output) でV2X (Vehicle to Everything)*1を実現する高速アンテナ・ビームサーチ技術は、高速移動・遮蔽環境でもミリ波通信を安定的に提供するために必要となる技術です。6Gの大容量通信に向けては、ミリ波等の高周波数帯の有効利用を実現可能な分散MIMOが有望視されています。しかし自動車等の高速移動体へ分散MIMOを用いたミリ波通信の実現には、その高速な移動に追従するため、高速にアンテナ・ビームを選択する必要がありました。従来手法では分散アンテナ間で干渉しないようにビームサーチのタイミングをアンテナで変えるため、アンテナ数が増大するとビームサーチ時間が増加する課題があります。本技術ではOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)*2の特長を活かして干渉を抑えることで、全分散アンテナの同時ビームサーチを可能とします。これにより、高速移動・遮蔽環境でもミリ波通信を安定的に提供することができます。

*1 V2X:車とさまざまなモノ(車と車、車とインフラなど)との間での通信のこと。
*2 OFDM:直行周波数分割多重方式、デジタル変調方式の一種。

運用を抜本的にスマート化する技術

図3は保守運用のスマート化に資する技術を示しています。
図3(a)の遠隔光ノード技術は、ネットワークの故障が発生した際に、遠隔からの故障切り分け自動化によって故障時の作業員無派遣化と、早期復旧へ貢献する技術です。線路や装置の突発故障や自然災害の罹災が生じた場合、NW故障要因の早期特定と早期復旧が必要となります。従来は、線路・装置の故障切り分けに現地へ作業員派遣が必要となり、故障要因の特定・復旧に時間や稼働が発生していました。この技術では、通信光の一部を抽出器により抽出し、その信号パワーを遠隔から計測することで、故障個所の切り分けを実現します。さらに多心の光信号のパワーをイメージセンサの活用により、一括でリアルタイムに計測することで測定時間を短縮することができます。
図3(b)の画像を用いた社会インフラ設備の劣化予測技術は、AI活用により、現行の点検の効率化・スキルレス化にとどまらず設備の維持管理を高度化し、インフラ保守の稼働削減・スキルレス化・点検品質の均一化を実現します。社会インフラの維持管理において設備の老朽化、専門技術者の不足、保全費の増加等の社会課題の解決が急務となっています。私たちは将来の腐食進行を予測した画像を生成できるAIモデルを構築し、車載カメラやドローン等での一括撮影とAI検査による、インフラ設備の劣化診断、劣化予測技術を確立しました。診断・予測技術により点検・補修の時期・方法を最適化し、保全コストを大幅に縮減することが可能です。
図3(c)のAI活用によるNWデータ補正と自律的故障分析は、複雑なNWにおける故障事象への対応迅速化・ゼロタッチ化を実現します。大規模NWの故障対処には大量データの解析が必要ですが、AIサービスだけを利用した解析では、必ずしも正しい対処手順が生成されない課題がありました。本技術では、過去の対処手順に基づき対処内容を単純な対処に細分化し、生成AIに正しい対処手順を生成させることで、精度の高い対処手順を提示し、故障対応の迅速化・対処の自律化を実現します。また分散管理されたデータ群に対し、NWのつながり情報を活用し、対応付けの精度を向上させるデータ不整合検出・補正AIも活用し、統合管理された高精度のNW情報に基づいたNW保守におけるAI活用を推進しています。

新ビジネス領域を開拓する技術

図4は新ビジネス領域を開拓する技術を示しています。
図4(a)の光ファイバ環境モニタリングは、道路掘削工事の初期工程を迅速・高精度に検知するデータ解析技術です。近年、無届での道路掘削工事が増加傾向にあり、監視稼働やインフラ損傷リスクが増大しています。本技術では、既設光ファイバから収集した環境振動データを解析することにより、平常時と工事時の振動データを比較し、無届の道路掘削を常時自動で検知することができます。また車両や大型施設などによる環境ノイズへの耐性が強いアルゴリズムにより、誤検知を抑制しています。無届工事の自動検知による社会インフラ全体の監視稼働削減および設備損傷事故の防止に貢献すべく、実フィールドでトライアルを実施中です。
図4(b)のインフラ4Dマッピング技術は、曖昧だった点検・撮影位置の高精度化並びに点検画像から点検設備の位置座標を高精度に算出する技術です。ドラレコ(ドライブレコーダ)を活用した点検では、GPS(Global Positioning System)による位置情報の曖昧さから点検画像と設備の紐付けを人が行う必要があり、保守人員減少に伴う稼働増大が課題でした。本技術で点検画像と設備の紐付けを人が行う必要がなくなり、点検の自動化・効率化が図れます。さらに、設備位置ごとに時系列で点検データを蓄積することで、修理・更改計画を最適化することができ、社会インフラ全体の点検稼働を削減できます。

おわりに

本稿では、最先端のアクセスネットワーク技術の研究と実用化による新たな価値創造とグローバルサステナビリティの実現に向けて、アクセスネットワークの研究開発の方向性と研究開発における主な技術を示しました。今後もIOWN/6Gをはじめとする研究開発に挑戦し続け、実用化に向けた加速を進めていきます。

■参考文献
(1) https://www.rd.ntt/as/history/
(2) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/pdf/index.html
(3) https://group.ntt/jp/ir/mgt/managementstrategy/
(4) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/index.html
(5) https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html
(6) https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/index.html

海老根 崇

NTTアクセスサービスシステム研究所は、最先端のアクセスネットワーク技術の研究と実用化により新たな価値創造に挑戦し、グローバルサステナブルな社会に貢献します。本稿ではその最新技術を紹介します。

NTTアクセスサービスシステム研究所
企画担当

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