特集
NTTが描く未来の農業──IOWN関連技術などを活用したフードバリューチェーン全体の取り組み
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NTTは2014年から農業を重点分野の1つとして位置付け、グループ全体で体制を構築し、最新のICTの活用、象徴的なパートナーとの連携により、一次産業における生産から流通、販売、消費、食に至るフードバリューチェーン全体の課題を解決する「Smart Agri」の実現に取り組んでいます。本稿では、NTTグループの取り組みの全体概要、将来のデジタルアグリ革命につながる最新の取り組み事例について紹介します。
久住 嘉和(くすみ よしかず)/ 吉武 寛司(よしたけ かんじ)
村山 卓弥(むらやま たくや)
NTT研究企画部門
NTTグループの取り組みの全体概要
農林水産業などの一次産業は人類の存続になくてはならない産業ですが、人手不足や高齢化、天候不良などによる収入の不安定さや昨今の新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、いかにフードセキュリティを確保し、国民に対して安心・安全に食を届けて栄養を確保するかなどを含めさまざまな課題を抱えています。その課題解決の手段として、AgriTech(アグリテック)*1やFoodTech(フードテック)*2などの技術が注目されています。
NTTグループにおける一次産業の取り組みは、2014年からNTT研究企画部門がとりまとめ、先端技術を持つNTT研究所と秀でたサービスを持つ約30のグループ会社と連携しながら、戦略策定から研究開発や商用化に向けたサービス開発、取り組み成果の情報発信を含め、生産からその流通、販売、消費、食に至るフードバリューチェーン全体を見据えた多岐にわたる取り組みを進めています(1)。NTTが提唱するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)*3とグループ各社が持つ全国規模の通信インフラやアセット、ネットワークサービスを組み合わせ、食農分野の新たなイノベーションを起し、新たな価値創造を創出します(図1)。農機やドローン等のロボティクス群を遠隔制御することによる農業の自動化、生産や流通現場の実世界の情報を仮想世界においてシミュレーションを行い、生み出された需給予測の結果を実世界へフィードバックし、流通の最適化をする農作物流通DX(デジタルトランスフォーメーション)、バイオ・微生物、遺伝子技術などにより農作物の持つポテンシャルを向上させ、飛躍的に生産性や品質を向上させるデジタル育種などの複合的な取り組みを組み合わせ、フードバリューチェーン全体の最適化を可能にするエコシステムの構築をめざします。現状のグループの戦力として、施設園芸(太陽光型、人工光型)、露地栽培(有機農業含む)、畜産、水産および共通的な気象情報、地図・地形情報および流通、販売、消費、食、SDGs(持続可能な開発目標)に資するサービス・技術をラインアップしています(図2)。この中から本特集記事でグループ各社から人工光型植物工場、SDGs、水産業、有機農業×ICTの取り組みについて紹介します。
*1 AgriTech:収量、効率、収益性を改善することを目的とした、農業、園芸、水産養殖における技術。
*2 FoodTech:食とITが融合した技術。ITを活用して食料の生産から加工、流通、消費までのサプライチェーンを見直して食品の廃棄・ロスの改善に役立てたり、IoT (Internet of Things)やAI(人工知能)を活用したスマート農業、インターネットと家電が連携したりするスマートキッチンなどに適用範囲が広がります。
*3 IOWN:NTTが2030年ごろの実用化に向けて推進している次世代コミュニケーション基盤の構想。
取り組み事例1
農業の自動化という観点では、2019年に国立大学法人北海道大学、北海道岩見沢市、NTT、NTT東日本、NTTドコモから構成されるメンバで産官学包括連携協定を締結しました。2020年からは農機メーカートップの株式会社クボタ等も参画し、農林水産省、総務省事業も活用しながら取り組みをさらに深化させてきました。2019年は5G(第5世代移動通信システム)を活用した遠隔監視下での無人農機の圃場(農場)内の移動を行いましたが、2020年は取り組みをさらに深化させ、非常に難易度が高いとされている遠隔監視下での圃場と圃場の間をロボット農機が移動する圃場間移動も行いました(2)。まさにリモートワールドの先行的な実証をこの岩見沢の地で行いました。ここで遠隔監視を行うために活用する通信ネットワーク方式については、5Gは周波数の特性上、カバーエリアが小さく、農機がそのネットワーク方式がカバーするエリアの圏外に出たときには、遠隔にある監視センタから走行中の映像を確認できず、自動走行を継続することができなくなります。この課題を解決するため、5GとBWA(Broadband Wireless Access)などのさまざまなネットワーク方式から農機の走行状態に応じて最適な方式を自動で選択できるIOWN関連技術である協調型インフラ基盤など複数の技術の検証を行い、その有効性を確認しました(図3)。また国の事業と連携した安全性に関するガイドライン策定やスマート農機のシェアリングの仕組み等のビジネスも意識した非技術面での検討も行い、ロボット農機を軸とした農業の自動化、さらには農作業の請負事業を早期に実現します。
将来は、現行ネットワーク容量の100倍を超えるIOWN関連技術により、農協や農作業の請負業者が監視センタ等の拠点から、広域の農場にある多数の農機やドローン、草刈機、収穫機等を遠隔地から監視・制御を行うことやこれらのさまざまなロボットの相互連携など、リモート社会の実現を想定した、デジタルアグリ革命につながる新たなイノベーションの創出をめざします。またこの技術体系をモデル化・体系化してグローバル展開も行い、人類の食料不足に貢献することも視野に入れて取り組みを進めます(図4)。
取り組み事例2
農作物流通の最適化を通じた流通コストやフードロス削減、フードセキュリティの確保に向けた取り組みも進めています。現在、野菜などの青果の約8割が全国1000を超える卸売市場を経由して取引されていますが、大部分は東京や大阪のような大都市の市場に出荷されます。しかし、ものが集まり過ぎれば市場の原理で価格は低下し、余ったものを他の市場に転送することで余分なコストも発生します。また、農作物を運ぶドライバーの不足も深刻です。昨今のネット通販等による個別配送の増加や昨今の新型コロナウイルス感染拡大が拍車をかけています。このような農作物流通のさまざまな課題を解決するため、IOWN関連技術のデジタルツインコンピューティングにより、市場に集まる膨大なデータをベースに需給の未来予測を行い、この予測情報を基に、市場に農作物が運び込まれる前に仮想空間上で売買を完了させる仕組みの構築をめざしています。これにより、供給側は必要な時期、場所、量の農作物を供給でき、逆に需要側は必要な時期、場所、量の農作物を確保できるとともに、ドライバー不足の解消、廃棄ロス・輸送コスト削減、フードセキュリティ確保など、フードバリューチェーン全体を意識した取り組みを通じて社会課題を解決することに加え、SDGsに貢献する取り組みになると考えています。市場関係者や農業団体、自治体なども関心を持ちつつあり、連携・パートナーシップも拡大中です。まさに農作物流通DXを起こすデジタルアグリ革命につながる仕組みとして各方面から期待されています。
おわりに
日本において、人類の存続になくてはならない一次産業に、今こそ多方面の知恵と技術を結集させることが必要だと考えています。そこでは、生産者を意識した「農」から利用者を意識した「食」という観点まで視野に入れ、フードバリューチェーン全体において、既存産業の変革を加速させ、新たなサービスを生み出し、産業構造をも根底から変えていく仕組みが求められていると考えます。NTTグループのICTやNTT研究所のR&Dという無限の可能性を秘めた武器を使い、さまざまなパートナーとともに未来の食農のかたちをめざします。今後も、NTTグループは関係者の方々から選ばれるバリューパートナーとなり、一次産業の発展に貢献していきます。
■参考文献
(1)https://www.ntt.co.jp/activity/jp/creation/agriculture/
(2)https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/11/16/201116b.html
(左から)吉武 寛司/久住 嘉和/村山 卓弥
問い合わせ先
NTT研究企画部門
食農プロデュース担当
TEL 03-6838-5364
FAX 03-6838-5349
E-mail ntt-agri-ml@ntt.com
NTTグループが今後も皆様から選ばれるバリューパートナーとなるべく、ICTを通じてグローバルでの農業をはじめとする食農分野の発展に貢献します。