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研究開発の強化・グローバル化に向けたNTT Research, Inc. 始動

研究開発の強化・グローバル化に向けたNTT Research, Inc. 始動

2018年11月のNTTグループ中期経営戦略「Your Value Partner 2025」において発表したNTT Research, Inc. は、5~10年後の事業創造をめざして、全く新しい技術のタネをつくる基礎研究を行います。最初に取り組む「量子物理科学」「情報数学理論」「医療健康情報」の3分野は2019年5月に発表したIOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)構想における新規性の根幹を支えます。NTT Research, Inc. のUpgrade Realityにご期待ください。

 

五味 和洋(ごみ かずひろ)†1/ 唐澤 圭(からさわ けい)†2

NTT Research, Inc. 代表取締役社長†1
NTT Research, Inc.†2

NTTのグローバル事業

NTTはグループ中期経営戦略「Your Value Partner 2025」において、成長の柱の1つとして、グローバル事業の競争力強化を進めています(図)。その中で、競争力の源泉として、イノベーションを起こすために次の3つの新会社を設立しています。1番目の創造的革新組織(NTT Disruption)は、1~3年程度の短期での事業化をめざし、お客さまと技術の価値を確認するPoC(Proof of Concept)等を通じて、新しい技術の商用化を行います。2番目のNTT Venture Capitalは、3~5年程度の中期での事業化をめざして、ベンチャーへの投資により新しい技術の実用化を行います。3番目が、私たちNTT Research, Inc. で、5~10年後の事業創造を目標に、全く新しい技術のタネをつくる基礎研究を行います。これら3つの新会社が、NTTグループの既存の事業会社および研究所と組み合わさることで、新しい技術をグローバルに展開したいと考えています。また、3つの新会社は、シリコンバレーに本社があります。これは、人と資金と情報が集まる場所に拠点を設けることにより、お客さまやパートナーと新しい技術を展開するスピードを速めたいと考えるからです。また、基礎的な研究活動そのものにおいて、さまざまな人と情報が集まる場所は、優れた研究者に刺激的な環境を提供できるということも、本社をシリコンバレーに置いた大きな理由です。

図 グローバル事業の競争力強化

NTT Research, Inc. の研究領域

NTT Research, Inc. の研究領域は、国内のNTT研究所と密に連携しながら、方向性を定めています。NTT研究所では、これまでにも光通信デバイスや人間心理などICTにかかわる幅広い研究分野において、基礎から応用までの長期にわたる研究プロセスを一貫してサポートすることにより、IEEEマイルストーンに選ばれるようなエポックメイキングな成果をいくつも生み出してきました。
NTTは、2019年5月にIOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)構想を発表し、従来のコミュニケーションサービスの垣根を超えて、人間の生活をさらに豊かにする技術開発を進めています。NTT Research, Inc.は、この構想の新規性の根幹となる光をベースとする「量子物理科学」、個人情報を含むさまざまなデータの安全な活用を促す「情報数学理論」、人間の基本データである「医療健康情報」を主な研究領域とする3つの研究所からスタートします。
① 量子計算科学研究所:Physics & Informatics Laboratories(NTT PHI Labs)
② 暗号情報理論研究所:Cryptography & Information Security Laboratories(NTT CIS Labs)
③ 生体情報処理研究所:Medical & Health Informatics Laboratories(NTT MEI Labs)

これらは、NTT R&Dが日本で長年培ってきた基礎技術分野であり、ここに海外の英知を掛け合わせて、さらに新たな技術の方向性をつくり出すことを目標にしています。
NTT PHI Labsでは、物理学と情報学の共創領域を探求し、基礎物理学研究、特に量子-古典クロスオーバーの物理とニューラルネットワークにおける臨界現象の接点に注目しています。また、その情報処理への応用など全く新しい理論を構築する基礎研究を推進していきます。その所長には、国立情報学研究所/スタンフォード大学の名誉教授で、内閣府の革新的研究開発推進プログラムのプログラム・マネージャーを務めた山本喜久が指揮をとります。
NTT CIS Labsでは、安心・安全な未来を構築するための暗号理論および情報セキュリティの基礎研究として、高度先端機能に対応した暗号理論やブロックチェーン等の分散環境下における安全性理論などを探求します。その所長には、世界最先端の暗号理論研究者でありNTT フェローでもある岡本龍明が指揮をとります。
NTT MEI Labsでは、プレシジョン・メディシン(精密医療)につながる情報処理技術、特に、生体の電気現象だけでなく、診療録の情報やゲノムの情報を含む多次元で大量の生体情報を扱うdata-driven medicine技術に取り組みます。その所長には、世界のトップクラスとの交流実績を持つ榊原記念病院顧問の友池仁暢が就任しました。
NTT Research, Inc. は、これらの研究所長が持つ人脈をはじめとしたネットワークを活用して、NTT研究所が蓄積してきた独自技術を支える研究領域に、海外を含む外部の優れた研究者を招へいし、国内と連携する新たな研究チームを組成してきています。NTT Research, Inc. が実施する基礎研究のめざす独自の未来像をお客さまやパートナーに紹介することは、NTTグループが有する長期的なビジョンや、類まれな人的リソースの奥行きなど、独自の企業アセットを示すことができ、長期的なビジネスパートナーとしての価値をアピールできると考えています。NTT Research, Inc.の存在やその活動が、NTTグループ事業の発展にこのようなかたちで寄与できればと考えています。

今後の展開

本特集では、各研究所のねらいを所長から説明します。また、暗号基礎理論の分野で特別研究員のBrent Watersが新しい研究所をつくるにあたっての思いを説明します。
NTTの研究所は、これまでにもさまざまな成果をあげていますが、世界的にみるとIBMやSamsungなどの研究所が、特許数や論文数でより多くの成果をあげています。さらに、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などの巨大企業が大学の研究室を買い取って研究活動を強化しています。私たちは、日本のNTT研究所と連携しながら、これまで築いてきた世界中の大学等の先端研究ネットワークをさらに拡大し、基礎研究の段階からより大きなエコシステムを、シリコンバレーを起点にグローバルに構築していきたいと考えています。

(左から)五味 和洋/唐澤 圭

 

シリコンバレーの地で、Xerox PARCなどが創造してきたデジタル社会をベースに、現実世界(Real)にさらに大きな変革(Upgrade)を生み出したいと考えています。NTT Research, Inc. のUpgrade Realityにご期待ください。

問い合わせ先

NTT Research, Inc.
Corporate Strategy Office
E-mail info@ntt-research.com