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特集

つくばフォーラム2024に見るアクセスネットワークの研究開発

IOWN時代のアクセスネットワークを実現する研究開発の取り組み

NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)は、線路・土木・伝送・無線・オペレーションの各技術分野で、アクセスネットワーク(NW)を支える研究開発を行っています。2030年ごろに本格的な展開をめざすIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想について、構想から実現へ向けて具体化を加速させる段階へと進めるため、私たちが思い描く将来のアクセスNW像と、それを実現するための取り組みについて紹介します。

川高 順一(かわたか じゅんいち)/馬場 孝之(ばば たかゆき)
石原 浩一(いしはら こういち)/岩城 亜弥子(いわき あやこ)
齊藤 浩太郎(さいとう こうたろう)
NTTアクセスサービスシステム研究所

アクセスネットワークの研究開発の方向性

NTTではIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を提唱し、その実現に向けて取り組んでいます。将来に向けたアクセスネットワーク(NW)の進化に向けてNTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)では、IOWN時代へ向けた環境と要件の変化について想定を置いています。
【どこでも】という観点では、これまでの住宅地や商業地などから、海上や山間などの産業が必要とするところへの超カバレッジが求められるように変わっていくと想定しています。【快適に】という観点では、ダウンロードを中心とした片方向・低解像度の通信ニーズから、高臨場・XR(Extended Reality)のようなリアルタイムで双方向な通信の快適さが求められるように変わっていきます。【いつでも・すぐに】という観点では、これまでは、ユーザがNWを選択する必要がありましたが、これが逆転し、NWがユーザの使い方に自動的に合わせるように変えていく必要があります。【切れることなく】という観点でも、平常時に切れないことは当然で、災害時でも切れないようにというニーズに変わっていくと考えます。【業務・設備の運用】の観点でも、単にDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めるという段階から、労働力の量・質の減少を補ったり、自動化を実現したりするように、一層デジタル化を進めていくよう実現レベルを高めていくことが必要になります。このような通信NWの基礎的性能、運用性の高度化というこれまでの取り組みの強化の方向性に加えて、最近の事業会社の動向をとらえ、新たなビジネス領域を開拓できるように、これまでの通信分野での設備活用を超えて、張り巡らせた光ファイバや設備点検の技術・ノウハウを非通信領域でも活用していく新たなニーズへの取り組みが必要であるととらえています。このニーズの変化に対応した研究開発に取り組んでいくため、図1に示すようにAS研として3つの研究開発方針を設定しています。方針①がエクストリームな要件に応え・サービスの多様化を支える研究開発、方針②が運用を抜本的にスマート化する研究開発、そして方針③が新ビジネス領域へのアセットを活用した研究開発です。さらにこれらの取り組みを進めるうえでも、最近の事業会社や社会の課題を踏まえ、NWのロバスト化、環境負荷低減、安全強化の3点を全体にわたる強化ポイントとしてとらえ取り組みを進めています。

想い描くIOWN時代のアクセスNW像とその実現技術

近い将来の姿としては従来のモバイル端末だけでなく、モビリティ、ロボット、センサデバイスなど、無線アクセスNWに収容される対象が多様化していく世界を想定しています。屋外や移動中でも大容量・低遅延の情報・サービスを受けることができるような環境変化を想定しています。有線アクセスNWにおいても、分散型データセンタなどの産業用途、遠隔医療などミッションクリティカルな用途、エンタテインメント・教育分野への活用など、高速大容量・低遅延、そして高い信頼性を要するコミュニケーションが広がっていくと考えています。
無線アクセスNWにおける高速・大容量化の実現に向けては、5G(第5世代移動通信システム)よりも高い高周波数帯の電波の利用が現在議論されています。しかしながら、このような高周波数帯の電波は、直進性が強く物陰へは回り込むことができず、遮蔽に弱い性質があります。そこで、多数のアンテナを分散配置することで、1つのアンテナからの電波が障害物に遮られてしまったとしても他のアンテナと接続を継続し、高速通信を維持できるアーキテクチャを検討しています。ビルの外壁や信号機の脇、スマートポールなど、これまでにはないようなさまざまな場所にアンテナが設置されるイメージになります。これを実現していくうえでは、アンテナ1つひとつをできるだけシンプル化していくことと、多数のアンテナを連携して制御する技術が必要になります。
これらを踏まえたアクセスNWの将来像を図2に示します。
アナログRoF(Radio-over-Fiber)技術は、無線信号をその波形のまま光信号で強度変調し、アナログ信号のまま光ファイバ中を伝送させる技術です。これにより、デジタルアナログ変換やビームフォーミングなどの信号処理部を基地局側に集約することで、張出局を小型化・低消費電力化・簡易化でき経済的に張出局を配置することが期待できます。
また、分散MIMO(Multiple Input Multiple Output)技術により、分散配置した複数のアンテナからのビームを選択・制御し、アンテナやユーザ間の干渉を低減しつつ安定した大容量通信を実現します。このような無線の高速化を実現する技術だけではなく、今後は無線をより柔軟に使いこなしていく技術が必要になります。そこで無線NWにおけるさまざまな情報の把握・予測・制御の3技術を連動させるCradio®(マルチ無線プロアクティブ制御技術)により、ユーザに無線ネットワークを意識させないナチュラルな通信環境を提供することに取り組んでいます。Cradio®の効能は多岐にわたるので業務のシーンに分けて説明します。まずは基本設計・案件提案のシーンです。建物の3D構造や周波数ごとの電波伝搬特性などを基に、お客さまが所望する無線環境の構築に必要十分となるように、公衆5G、ローカル5G、Wi-Fiといった方式を併用したアンテナ配置やRIS(Reconfigurable Intelligent Surface)などの無線中継機器の配置設計・制御をスキルレスで実施することが可能になります。
次に、運用・保守のシーンでは、無線品質予測技術の創出に取り組んでいます。コネクテッドカーへの無線アクセスNW提供を例とすると、事前に学習した走行ルート上の無線の電波強度等の情報や直前の無線情報を基に、走行する際の数秒先の品質予測を実行し、途切れないように必要に応じて無線回線を切り換える制御を行っていくことで最適な運用条件を確保し続けます。Cradio®に関する新領域活用として、無線センシング技術の適用があります。電波状態の変化の把握という部分にフォーカスし、アンテナから飛んでいる電波が人や物に遮られたり反射したりすることを利用して、人の通過やドアの開閉等の物体検知を行います。このほか、部屋の中に配置されている端末の設置位置を自動で把握するシーンへのセンシング技術の適用についても、取り組みを進めています。
今後これまで以上に多様な場所に配置される無線のアンテナを光ファイバ網に収容する必要があります。光ファイバ網のアクセスNWへの展開については、これまでは主にはFTTH(Fiber To The Home)に向けて光設備を構築してきたため、住宅などの居住地中心のエリア展開をしてきました。これは今後も継続しますが、将来のアクセスNWでは、これらに加えて、さまざまな場所へ設置される無線基地局などへのリーチが必要になってきます。加えて、フレッツ光のようなベストエフォートのIPサービスではない、より高速・高信頼を要求するデータセンタなどへの通信回線の提供も必要となり、計画的な需要予測困難、ミッションクリティカルな品質が要求されるという変化が想定されます。このような変化に対応していくため、柔軟性・信頼性・拡張性を有した多段ループ型配線を既存のアクセスNWにオーバーレイする、または既設ケーブルを活用して構築し、適所に提供していくことができるよう、その構成法技術の創出を行いました。また、光配線の敷設技術についても、信号柱や街路灯への基地局設置等の場合に、これまでの地下管路や架空から引き込みができないような場面では、路面に形成した溝へケーブル敷設する施工技術を創出し、これらの将来想定されるニーズの変化に対応していこうと取り組んでいます。
光ファイバケーブルに収容された各回線はNTTの収容ビルに集められます。本格IOWNの時代では、収容局ではインターネットの信号だけではなく、HDMIのような映像の非圧縮信号や、無線のアナログ信号、光ファイバセンシングのための光信号など、これまで以上に多様な用途に応じたさまざまな信号を取り扱っていくことが想定されます。加えて、光信号のままで収容ビルでの折り返しを含めた、任意の地点間を結ぶエンド・ツー・エンド光パスを提供するなど、ニーズに対応していくことが必要になります。この要求を実現するため、フォトニックゲートウェイという光ノードの技術の研究開発に取り組んでいます。信号フォーマットに依存せず、プロトコルフリーで任意の対地を光のままパスを提供することにより、柔軟な制御で速やかな提供、多様な光サービスの効率的な収容が可能となります。また、特にトラフィックが集中するNWに向けては、超大容量伝送を実現するマルチコア光ファイバケーブルを技術創出しています。
提供するサービスの保守運用の高度化についても、技術創出を進めています。平時に向けては、通信設備の被災予測技術により、NWのロバスト化に取り組んでいます。過去の災害データや気象データと、NTTの設備個々の経年状況や特性などのデータを組み合わせることによって、被災する確率が高いところをあらかじめ予測しておき、事前に設備の耐力強化などの対処を講じることに貢献する取り組みです。大雨に対する電柱被災だけでなく、河川増水による橋梁添架設備の被災、地震による地下管路設備への被災など、さまざまな要因による各種通信インフラへの被災を予測する技術に取り組んでいます。
また、災害や大規模NW故障の発生後の対応に向けては、Konanという技術により、影響を受けている通信装置からのアラームの状況から故障個所を推定します。さらにNWの設備構成をサービスレイヤ、伝送レイヤ、物理レイヤ全体にわたってデータモデルとして理解することで、その故障による影響を把握し、その後の情報発信・対策立案を迅速に進めることに役立つNOIMという技術の研究にも取り組んでいます。

技術創出から社会実装までの取り組み

AS研において技術群を創出していくために、どのように研究開発活動を進めていくのかのフローを図3に示します。

■方向性の見極め

最初の方向性の見極め⇒研究テーマ化では、本稿冒頭で説明したとおり、めざす方向性を全体で合わせ、光アクセス、無線、線路、土木、オペレーションの各技術分野において、技術動向や強みなど踏まえ、テーマ化を図っています。

■研究所内での取り組み

3番目の研究開発のフェーズにおける活動について、まず自分たち自身に閉じた取り組みを紹介します。そして、社会実装をめざした研究開発フェーズにおいて、①質の高い効率的な技術検証、②世界トップレベルの場を利用した議論、③実用をめざした関連技術一体検討を行い、研究所内で技術を磨き上げることに取り組んでいます。①の具体例としては、無線技術の検証環境構築があります(1)。将来の利用環境、利用シーンとして狙っている環境を再現するための専用の実験施設を、自社設備として横須賀ロケの実験室内に構築しています。専用の環境を自ら持つことによって、環境構築の自由度や利用の制約も少ない環境で、より精度の高い検証を効率的に実施しています。②については光アクセス領域では、この分野で世界のトップクラスの研究者が集うECOC(The European Conference on Optical Communication)やOFC(Optical Fiber Communications Conference and Exhibition)などの国際会議や論文誌にて積極的に発信し、技術の先進性・優位性や課題設定の妥当性を高めています。③は光ファイバシステムでの取り組み例を挙げます。ファイバ構造そのものの設計だけでなく、ケーブル化、実フィールド環境下での敷設性、接続性、伝送特性などもセットで検証を行い、通信設備としての実力を高められるよう取り組んでいます(2)

■パートナー連携

さまざまなパートナーとの連携の仕組みや場を活用し、よりよい研究成果を創出していく取り組みも進めています。
④のベンダ連携では、6G(第6世代移動通信システム)に向けて国内外の主要ベンダ各社様と実証の協力体制を構築して、研究を進めています(3)。機能の創出が製品実装とバラバラにならないよう機能の実装上の課題も念頭に実現性のある研究を進めていきます。⑤の事業会社・社会連携ではユースケース開拓を研究段階より積極的に実施し、必要な機能を、必要なレベルで技術確立することをめざすアプローチです。品川港南エリアのロボット配送実験では、無線技術の立場で参画し、ビル内のインテリジェント化制御に取り組んでいるNTTグループ会社と連携して実証を進めています(4)。⑥の公的機関連携としてはAPN(All-Photonic Network)関連技術における取り組み例があります。公共性、波及性が高いテーマについては、国のプロジェクトスキームも活用して実現をめざします(5)
標準化活動の取り組みによる技術の展開も進めています。無線、光アクセス、光ファイバ、オペレーションの各領域において、デジュール、フォーラムなどの標準の機関・団体においてNTT技術の標準化に向けた寄書の提出や、役職の獲得による議論の牽引を行っています。コア研究開発フェーズから機能・方式・製品等の標準化活動を行うことにより、製品に実装していくために必要な機能や相互接続などを可能とするような規程事項の標準化を進めます。また、標準化プロセスをとおして、NTT技術の中身が広く業界、関係者の理解を得て仲間づくりが進むことにより、品質・相互接続性を確保したり、コスト削減、ビジネス機会を創出したりすることもねらい、取り組みを進めています。

■出口探索

最後に、さまざまな可能性を持つ技術の良さをもっと引き出していこうという、出口に向かうフェーズにおける取り組みです。技術分野横断で複数の技術を組み合わせることにより新たな価値を見出す取り組みであったり、従来からのアクセス領域以外へ技術を新たに適用していく可能性について検討したり、サービサーとマッチさせた実証実験により価値創出を行うなど、技術の適用領域の拡張に向けた取り組みを行っていきます。このような活動の事例として、通信インフラの画像認識AI(人工知能)による設備と錆の検出、評価技術を自治体様が管理する標識とガードレールの錆を自動検出し、設備点検へ適用した事例(6)や、低遅延の複数映像の分割表示処理技術をAPNの低遅延光伝送技術と組み合わせ、NTTグループ会社と連携して音楽イベントへ持ち込み遠隔合奏・合唱を実証した事例などがあります(7)

おわりに

本稿では、AS研が考える、将来アクセスNWの姿と、それを実現する技術と取り組みについて紹介しました。①本格IOWN時代のニーズの変化に向けた研究開発の方向性、方針の設定、②高速大容量・低遅延・高信頼な通信環境を実現するための無線、光伝送、光ファイバ関連技術や、インフラ保守、オペレーション高度化を実現する技術創出の推進、③パートナーとの連携や実証の場の活用、研究活動の質を高める営みによる技術の研鑽により、2030年ごろのIOWN時代のアクセスNWを実現していきます。

■参考文献
(1) https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/05/17/220517a.html
(2) https://www.rd.ntt/research/AS0106.html
(3) https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/02/22/pdf/240222aa.pdf
(4) https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/03/26/240326b.html
(5) https://www.nict.go.jp/press/2023/11/06-1.html
(6) https://www.nttbizsol.jp/newsrelease/202208101000000728.html
(7) https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/12/01/221201a.html

(上段左から)川高 順一/馬場 孝之/石原 浩一
(下段左から)岩城 亜弥子/齊藤 浩太郎

本稿で挙げた取り組みの一層の推進、IOWN本格時代の実現に向けて、技術の磨き上げ、標準化、製品化、そしてユースケース探索などについてベンダ様、通信建設業界様、事業パートナー様との一層の連携をお願いさせていただく次第です。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
アクセスサービスシステムプロジェクト
TEL 0422-59-4854
FAX 0422-59-5651
E-mail asap-hosa-p@ntt.com

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