NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

特集

つくばフォーラム2024に見るアクセスネットワークの研究開発

次世代光ファイバ設備技術の研究開発の取り組み

NTTアクセスサービスシステム研究所では通信ネットワークの持続的発展に寄与する光ファイバ設備技術の研究開発を推進しています。本稿では、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の3要素の1つであるオールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)の実現に向けた大容量化・高度化に資する光ファイバ設備、労働人口減少や通信サービスの多様化および環境負荷低減といった社会の変化・要請に対応する光ファイバ設備の研究開発の取り組みについて概説します。

片山 和典(かたやま かずのり)
NTTアクセスサービスシステム研究所

光アクセス設備を取り巻く状況

ネットワークトラフィックは増大の一途をたどり(1)この傾向は今後も継続すると予想されています。労働人口の観点では、NTT工事の従事者は今後10年で約35%減少する見込みです。また、通信サービスもこれまでの人対人の通信から、物対物の通信へと多様化するに伴い、光アクセス設備への要件も多様化すると考えています。さらには、環境経営への要請からNTTグループでは「NTT Green Innovation toward 2040」(2)を策定しており、光アクセス設備においても環境性能を意識した技術創出が求められると考えています。すなわち、社会の要請・変化に対応できる光ファイバ設備技術を創出し続けることが必要です。
また、近未来のスマートな世界を支えるコミュニケーション基盤IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を構成する3要素の1つであるAPN(All-Photonics Network)では、ネットワークから端末まですべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入することで、「低消費電力(電力効率100倍)」、「高品質・大容量(伝送容量125倍)」および「低遅延(エンド・ツー・エンド遅延200分の1)」の性能をめざしています(3)。光ファイバ設備技術の研究開発においても、APNの目標性能達成に貢献していきたいと考えています。

空間分割多重光ファイバ・ケーブル技術

はじめに空間分割多重光ファイバ・ケーブル技術について紹介します。これまで伝送システムの容量は、20年で1000倍のペースで増大しており、これまでは時分割多重伝送技術や波長分割多重伝送技術によって進展してきました。しかしながら、既存のシングルモードファイバ(SMF)の伝送容量限界は、1心当り約100Tbit/sとされ、近い将来、伝送容量限界に達すると予想されています。そこで伝送容量限界打破に向け、1心の光ファイバに複数の空間チャネル(モード数×コア数)を設定することで伝送容量を拡大する空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)光ファイバの研究開発を推進しています。SDMファイバの概要とその導入に向けた流れを図1に示します。SDM光ファイバには、1心の光ファイバ内にコアを複数配置するマルチコアファイバ(MCF:Multi Core Fiber)と1つのコア内で複数のモードを信号として伝搬するマルチモードファイバに大別されます。また、それぞれのコア間やモード間で発生する信号クロストークを許容しない設計の非結合型と、信号クロストークを積極的に許容する結合型に分類されます。SDM光ファイバの導入に関しては、まず空間チャネルを拡張しつつ、既存設備との親和性・互換性を考慮した非結合型シングルモードMCFが最初のターゲットになると考えていますが、IOWN APNの技術目標「伝送容量125倍」を実現するには、10以上の空間チャネル拡張が必要と考えています。10チャネル超(10ch超)の候補としては、非結合型マルチモードMCFや結合型MCFの2つがあり、それぞれ研究開発を推進しています。
非結合型シングルモードMCFを検討するにあたっては、既存SMFと同等のクラッド径(標準クラッド径:125μm)を採用することによって、従来と同等の光ファイバ製造性を期待できるとともに、既存の光ケーブル構造や光コネクタインタフェースが利用できるといった、既存光ファイバ設備との高い互換性を確保することができます。標準クラッド径非結合型MCFの場合、コア数は最大4になると考えています。また、標準クラッド径MCFに関しては、既存SMFと同様に短距離、メトロ・コア、長距離海底といった適用領域に応じた設計技術を確立しています。
標準クラッド径MCFの適用領域とその実用化によるねらいを図2に示します。標準クラッド径MCFの有望な適用領域は大容量・多心需要が高い領域であり、海底ネットワークおよび陸上ネットワークではデータセンタ間等が該当すると考えています。海底ケーブルは構造上ファイバ収容スペースが制約されることから、標準クラッド径MCFを導入することで敷設本数を増やすことなく伝送容量拡張が期待できます。陸上ケーブルにおいては管路スペースが制約されることから、標準クラッド径MCFを導入することによって、ケーブル・管路等を増設することなく、伝送容量拡張が期待できます。伝送容量を持続的に拡張しつつ設備構築コストを抑制する効果を見込み、まず、海底ネットワークから実用化に着手することにしました。
また、標準クラッド径MCFケーブルシステムの実現に向けては、接続などの周辺技術の確立と具現化が必要です。光コネクタ、融着接続、FIFO(MCF-従来SMF変換)デバイスおよび架・クロージャ等の関連物品といった周辺技術の具現化に向けては、既存・市中技術との互換性や共通化を考慮した技術開発を推進しています。
試作した標準クラッド径MCFケーブルをNTTの研究開発センタ内のとう道に敷設し、フィールド環境下にて良好な光学特性(接続性・長期安定性)を確認しています。また、同環境下にて将来のデータセンタネットワークにおける大容量化を想定した世界初の大容量伝送実証(1ファイバ当り1.6Tbit/s・10㎞)に成功しています(4)
また、標準クラッド径MCFの適用領域拡大の事例として、MCFを用いた光給電システムを提案しています。1本のMCFで信号光と給電光の同時伝送を可能とし、世界最高の光給電能力(14W・km)と光伝送能力(140Gbit/s・km)を達成しています(5)
10ch超の非結合型マルチモードMCFでは、モード多重伝送路を用います。モード多重伝送路の技術課題としては、伝送路損失のモード偏差および光中継増幅器のモード偏差によるモード間光強度差によって発生する信号品質劣化があります。この課題を克服する方法として、モード間の光強度差を可変補償する光導波路デバイス提案し、2モード光増幅器で発生する利得差の広帯域補償を世界で初めて実証しています(6)
もう一方の10ch超の結合型MCFでは、12コアファイバを用いた世界最長の7280km光増幅中継伝送に成功しています(7)。さらに結合型12コアファイバ伝送路向けにマルチコア一括光増幅器を設計・製造し、世界初の一括増幅により、従来の光増幅器利用時と比べて消費電力を約67%低減可能としています(8)

遠隔光路切替ノード技術

所内外光ルート切替作業を、人手に頼ることなく、遠隔制御可能とする遠隔光路切替ノード技術を図3に示します。遠隔光路切替ノードは、所内・所外ノードから構成され、光線路のルート切替点に設置された所外ノードを通信ビル内に設置された所内ノードからの遠隔制御することでルート切替を行います。遠隔光路切替ノード技術は、「光給電遠隔制御技術」「光クロスコネクト技術」「光ポート監視技術」の3要素技術によって構成されています。3要素技術をユニット化した「光路切替部」「光監視部」「リモート制御部」を実装し、各部連携動作による光ルート切替を可能とする所外ノード一体化試作を推進しています。ユニット化によってメンテナンス性を高めるとともに、地下マンホール内での利用を想定し、内部筐体と外部筐体の二重構造とし、防水性能(IPX7相当)を有しています。

柔軟な光線路構築技術(光分岐・簡易敷設)

通信サービスの多様化により、IoT機器など多種多様な端末がネットワークへ接続されることが想定されますが、端末を接続するためにネットワーク構築が必要になる点が課題となっています。課題解決方法として、既存ネットワークに、必要なタイミングで必要な場所に端末を接続するために、通信中の光ファイバを通信断させることなく後付けで分岐できる光分岐技術を図4に示します。通信用の光ファイバ側面を通信影響なくコア付近まで研磨し、研磨済みの分岐用光ファイバとコアどうしを近接させることで、光分岐を可能とします。これまでは、通信用光ファイバと分岐用光ファイバは、実効屈折率の等しい光ファイバどうしとする必要があり、実効屈折率の異なる光ファイバが混在する商用設備での利用は難しいという課題がありました。この課題に対して、コア直径を変化させたテーパ構造を有する分岐用光ファイバの設計・製造を行い、多様な実効屈折率を有する光ファイバに対して1種類の分岐用光ファイバで分岐可能であることを世界で初めて実証しました(9)
また、電柱や管路などの通信基盤設備によらず路面に敷設可能な簡易敷設光ファイバ・ケーブル技術を開発しました。光ケーブルとしての基本特性を維持しつつ可とう性と細径化を両立する光ケーブルと、接続作業を簡易化する一括接続光コネクタを開発しました。本技術によって、大規模な工事を必要としない経済的かつ迅速な光ケーブル敷設が可能です。

環境性に優れた光ファイバ・ケーブル技術

光ファイバ・ケーブルシステムに求められる環境負荷低減の要件例および環境配慮設計のポイントを図5に示します。光ファイバ・ケーブルの環境負荷を低減するには、プラスチックの使用量・廃棄の削減、リサイクル率向上およびCO2排出量削減等が要求されます。この要求を考慮するにあたっては、従来の信頼性や施工性、経済性と環境性をバランスよく成立させることが重要です。環境負荷低減を考慮した光ファイバ・ケーブルの設計ポイントとしては、ケーブル構造変更(スロット構造→細径高密度構造)、ファイバ種別変更(既存SMF→MCF)、リサイクル方法変更等により、ライフサイクル全体で検討することです。
細径高密度光ファイバ・ケーブルは、ケーブルの経済性・施工性向上・環境負荷低減を目的に開発されました。環境負荷低減の観点では、細径・高密度化により、従来比でプラスチック部材を約30%削減でき、ライフサイクル全体におけるCO2排出量は35%削減可能です。細径高密度光ファイバ・ケーブルは、アクセス区間(架空・地下)に続き、特殊区間(鳥虫獣害区間)、中継区間(地下)へと提供区間を拡大しています。細径高密度化構造へ統一化することで、細径高密度化の効果を最大化するとともに、周辺物品やスキルの統一化および環境特性に優れたケーブルの展開が期待できます。
また、SDMファイバを用いることで、光ファイバ・ケーブルとして同一コア数であれば、既存SMFケーブルと比べて心線数を大幅に削減できることからケーブル細径化が可能となります。このため省資源化に加え、製造〜廃棄におけるエネルギー抑制など、ライフサイクル全体におけるCO2排出量の低減効果も期待できます。

今後の光ファイバ設備技術R&Dの方向性

今後の光ファイバ設備技術R&Dの方向性を図6に示します。サービスの高度化・多様化に対応し続ける、労働人口の減少・災害に対して通信サービスを維持し続ける、資源・環境を守り続ける、ことができるSustainableな光ファイバ設備技術の実現をめざして、R&Dを推進していきます。

本研究成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究(採択番号20301)(JPJ012368C01001)により得られたものです。

■参考文献
(1) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/index.html
(2) https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/09/28/210928a.html
(3) https://www.rd.ntt/iown/0002.html
(4) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/10/05/231005a.html
(5) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/08/29/230829a.html
(6) https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/06/27/220627a.html
(7) https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/03/21/240321a.html
(8) https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/09/28/230928a.html
(9) https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/04/24/240424b.html

片山 和典

IOWN APNの実現に資する光ファイバ設備技術および社会課題の解決に資する光ファイバ設備技術の研究開発を推進し、Sustainableな社会の実現に貢献します。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
アクセス設備プロジェクト
TEL 029-868-6150
FAX 029-868-6400
E-mail asetsup-contact@ntt.com

DOI
クリップボードにコピーしました