特集2
ソーシャルインフラ・イノベーション 持続可能な社会に貢献
- 社会インフラ
- 基盤設備
- スマートメンテナンス
NTTインフラネットは、ソーシャルインフラ・イノベーションの構想を掲げて、人口減少、少子高齢化、老朽化設備の増加などの社会インフラ事業を取り巻く問題の課題解決や新たな価値創造の取り組みを進めています。本稿では、ソーシャルインフラ・イノベーションの実現に向けた当社の事業戦略について紹介します。
泉 俊光(いずみ としみつ)
NTTインフラネット
社会インフラ事業を取り巻く環境
NTTインフラネットは、1999年の設立以来、NTTグループの通信ネットワークを支える管路・とう道・マンホールなどの基盤設備の構築・保守業務等を担っています。また社会インフラの安全性確保、災害時の対応力向上などの社会的要請の高まりに伴う無電柱化事業の展開や、社会インフラの維持・運用業務の高度化・効率化に向けたスマートインフラ事業の展開など、サステナブルな社会インフラの運営をめざした取り組みを推進することで、一般市場、つまりNTTグループ外への事業拡大に取り組んできました。2023年度の営業収益では、初めてNTTグループ内での収益と、一般市場での収益が逆転し、一般市場の収益が大きくなりました。これは、当社にとっての画期的な出来事であり、社会インフラ事業を取り巻く環境の変化を実感しています。
昨今の人口減少、少子高齢化、老朽化設備の増加、災害の激甚化などは、インフラ事業者に多くの課題をもたらしています。人口減少が進むにつれ、人口分布がまばらになることが想定されますが、人口が減少した地域においても社会インフラが必要となります。加えて、建設業の就業者は、1990年代をピークに減少し続けており、人手不足が深刻な問題となっています。また電気、水道、ガス、通信などのライフライン施設、および道路、トンネル、橋などの多くの公共施設は高度経済成長期に集中的に整備されたため、今後急速に老朽化することが懸念されています。今後20年間で、建設後50年以上経過する施設の割合は加速度的に高くなる見込みであり、社会インフラの維持管理・更新コストの増加が懸念されています。国内における建設投資と就業者の推移を図1(1)にします。このようにインフラ事業者には限られたリソースとコストで面的に社会インフラを維持運用することが求められており、戦略的な取り組みが必要となります。
こうした背景を受け、当社ではここ数年、地域での仲間づくりに注力し、ソーシャルインフラ・イノベーションを推進しています。ソーシャルインフラ・イノベーションとは、電力、ガス、通信、水道、道路などさまざまなインフラを個別に管理するのではなく、社会全体のものとして一体で運営し、そこにDX(デジタルトランスフォーメーション)や効率化などのイノベーションを加えていくことで、サステナブルなインフラ運営を実現する構想です。この構想を実現するため、当社は図2に示す事業戦略に基づき3つの事業によるアプローチを進めています。1つめは、当社の運営を支えてきたNTTグループのエンジニアリング事業であり、通信基盤設備の構築・保守業務を一元的に実施しています。2つめは、NTTグループのエンジニアリング事業で培った技術や知見を活用し、一般市場に展開するソーシャルインフラ・エンジニアリング事業です。3つめは、インフラ運営業務全般の課題解決に向けてICT(Information and Communication Technology)やGIS(Geographic Information System)を活用したプラットフォームやアプリケーションを展開するスマートインフラ事業です。
エンジニアリング業務の深化と一元化に向けた取り組み
当社では、通信基盤設備の構築・保守業務を効率・効果的に実施するためNTTグループのICTを活用し、MMS(Mobile Mapping System)による設備点検や、「トリプルIP®」によるGISと連動した設備情報管理などのスマートメンテナンスに取り組んできました。これらの取り組みは、NTTグループのエンジニアリング事業を通じて磨いてきたものであり、共通の課題を抱えるインフラ事業者にも展開できるものが多くあります。例えば、多くの自治体が上下水道を管理するうえで、インフラの老朽化と技術者の減少に伴うメンテナンスに危機感を抱いています。これに対し、当社は通信設備を点検する「スマートメンテナンスツール」を下水道事業に活用し、点検を行っていただくことで課題解決に取り組んでいます。通信設備と同じ点検ツールを他分野で使用することができれば、将来的には点検と管理業務を複数のインフラ事業者で共同実施でき、AI(人工知能)による自動判定機能などの機能開発にかかるコストもシェアリングできます。今後、道路や公園などにも拡大することで、メンテナンスの負担を軽減し、サステナブルなインフラ運営をめざしています。このように当社では、NTTグループのエンジニアリング事業で培った技術や知見を一般市場に展開するため、ソーシャルインフラ・エンジニアリング事業を展開しています。
ソーシャルインフラ・エンジニアリング事業では、無電柱化が大きな市場となっています。無電柱化は、美しい景観の維持、安全性の向上、災害リスクの軽減に加え、インフラの老朽化への対応にも大きく貢献します。特に都市部や観光地ではその効果が顕著に現れ、国や東京都も景観と防災の観点から無電柱化に積極的に取り組んでいます。当社は無電柱化において、通信や電力の既存設備を有効活用する既存ストック工法を推進しています。これによりコスト削減や工期短縮が実現でき、環境や住民生活への影響も最小限に抑えたグリーンな工事として評価されています。
また社会環境の変化に伴う新たな市場として、自営線構築の市場にも注目しています。近年、クラウドサービスの普及やエッジコンピューティングの需要増加、IoT(Internet of Things)やAIの進展によるデータ量の飛躍的な増加などの背景を受けて、データセンタの建設が増えています。さらには環境負荷の低減を目的とした太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギー関連施設の需要が高まっています。これらの施設では、施設間をつなぐ通信ケーブルや、電源を供給する電力ケーブルなどの自営線が必要となります。当社は、通信設備の構築、維持運用のノウハウを活かし、自営線のルートコンサルから設計、施工までをワンストップで提供することができます。これらの自営線の構築においては、道路や河川などに自営線を設置・専用するケースが多くあります。この場合、行政を含めたステークホルダーとの折衝・協議が必要となりますが、それらの対応も当社の技術スタッフが一元的にサポートすることで、自営線構築の工期とコストを削減することができます。
これらのエンジニアリング業務全般を通じて、共同施工・共同点検にも積極的に取り組んでいます。複数のインフラ事業者が協力して道路掘削工事などを共同で行う共同施工・共同点検は、同一個所での繰り返し工事・点検を抑制できます。インフラを社会全体のものとして考えた場合、リソースとコストを大幅に削減することができるためソーシャルインフラ・イノベーションを実現するうえで重要な領域であり、今後さらに取り組みを加速させていく必要があります。
スマートインフラ事業によるイノベーション
スマートインフラ事業では、工事の計画から現地立会、道路占用許可申請、設備構築工事、道路台帳の修正、設備管理点検などのインフラ運営における一連のプロセスを高度化・効率化するサービスの開発、展開に取り組んでいます。この取り組みでは、業務プロセスを改善するアプリケーションに加えて、インフラ事業者や自治体がインフラ設備のデジタルデータを相互活用可能なSmart Infraプラットフォームを提供しています。Smart Infraプラットフォームでは、インフラ設備の設備データを高精度な3D位置情報と結び付けて管理することができ、さまざまなアプリケーションでそのデータを活用することでインフラ運営のイノベーションをめざしています。
具体的な例として、当社が提供している「立会受付Webシステム」があります。工事立会の申請をデジタルデータによってワンストップで実施し、インフラ事業者や自治体におけるインフラ設備の事前調査や調整協議の業務負担を減らすことができます。このシステムは、参画するインフラ事業者の増加に伴い、ユーザとしてご利用いただくインフラ事業者の皆様も業務負担が軽減する効果を実感できるものであり、2024年10月までに35のインフラ事業者がこのシステムを利用し、月約10万件の工事立会を受付するまでに拡大しています。「立会受付Webシステム」の取り組みは、まさに地域での仲間づくりによるソーシャルインフラ・イノベーションが実現した一例だといえます。
またさらなる技術革新をめざして、経済産業省などが進めるデジタルライフライン全国総合整備計画などの国のプロジェクトに参画して、Smart Infraプラットフォームの骨格となる高精度な3D空間情報による位置基準やインフラ設備情報を空間IDに変換する技術等を提供し、正確な空間の情報を一意に識別できる仕組みづくりに貢献しています。正確な空間情報が一意に識別できるようになることで、ドローンによる生活必需品の配送、自動運転、オンデマンド交通サービス、ロボットの遠隔操作といった運行オペレーションの高度化やインフラ設備の一元管理が高精度に実用化され、人手に頼らない方法でのインフラ運営を実現することをめざしています。Smart Infraプラットフォームを活用したソーシャルインフラ・イノベーションの展望を図3に示します。このようにスマートインフラ事業では、地域社会の課題解決と価値創造に取り組むことで、イノベーションの具体的な手段を生み出し、ソーシャルインフラ・イノベーションを加速させたいと考えています。
NTTインフラネットのパーパス
NTTインフラネットは、引き続き地域での仲間づくりに注力し、ソーシャルインフラ・イノベーションを事業戦略に掲げて取り組みを進めていきます。2024年10月には、当社の企業理念体系を見直し、パーパス「新しい社会のインフラをつくり、次の時代に つなぐ」を設定しています。これは社会の変化に合わせて当社のあり方を再定義すると同時に、社員1人ひとりがインフラエンジニアリングのプロフェッショナルとして、お客さまやパートナーの皆様とともに地域社会の未来を築く存在となり、社会に対して大きな価値を生み出すという宣言になります。情報通信をはじめとする社会インフラ事業で培った技術と使命を継承し、社会インフラを構築・創造し、守り、未来へとつなぐことができるサステナブルなインフラ運営の実現をめざします。
■参考文献
(1) https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00600870&tstat=000001017180&cycle=8&tclass1val=0
(2) https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200531&tstat=000000110001&cycle=7&year=20230&month=0&tclass1=000
001040276&tclass2=000001040283&tclass3=000001040284&result_back=1&cycle_facet=tclass1%3Atclass2%
3Acycle&tclass4val=0&metadata=1&data=1
泉 俊光
問い合わせ先
NTTインフラネット
経営企画部 企画部門 企画担当
TEL 03-6381-6421
E-mail infranet.pr@nttinf.co.jp
ソーシャルインフラ・イノベーションは、さまざまなインフラを社会全体のものとして一体で運営し、DXや効率化などのイノベーションを加えていくことで、サステナブルなインフラ運営を実現する構想です。ご興味・関心がある方、ぜひご一報ください!