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特集2

新しい社会のインフラをつくり、次の時代につなぐ、ソーシャルインフラ・イノベーション

インフラ設備情報の空間マネジメントによる社会インフラのDX推進

NTTインフラネットはインフラ設備情報の空間マネジメントを推進するために、インフラ設備情報の高精度位置化および3次元モデルの作成・活用を進めており、高精度位置基準情報「高精度3D空間情報」を特別区・政令指定都市で整備してきました。最近では国が都市空間の3次元化や設備管理の3次元化によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の促進に力を入れているところもあり、これまで蓄積してきたデータや、技術、ノウハウを活かして、国の動きに連動したビジネス展開を図っていくことを考えています。

村上 隆史(むらかみ たかし)/千葉 繁(ちば しげる)
NTTインフラネット

インフラ設備情報の課題と高度化

■インフラ設備情報の現状

インフラ設備情報は設計時につくられた平面図や縦断図といった情報を基に、GIS(Geographic Information System)やCAD(Computer Aided Design)で管理されることが一般的です。多くのインフラ設備情報は、GISやCADによって背景となる地図情報(背景地図)を基に地理空間情報が付与されています。この背景地図にはさまざまな種類があり、道路管理台帳附図や都市計画図、民間企業が発行する地理空間情報などが利用されています。これらの背景地図は、位置精度が地図情報レベル500~2500とさまざまであり、また背景地図の更新がリアルタイムにされないなど、現実世界の地理を正確に表現するものではありません。このためインフラ設備情報に基づいて工事を行う場合には、工事場所にインフラ設備情報が記載された設計図を持って行き、オペレータが現地と設計図を照らし合わせ、インフラ設備の埋設位置のあたりをつける必要があります。このようにインフラ設備の埋設位置を特定するためには、熟練した人間の経験やノウハウなどを活用し、埋設位置を推測するという行為がその都度必要になっています。
また設備設計分野においては、BIM(Building Information Modeling)による設計業務の3次元化が進んでいます。BIMでは、2次元CADによる図としての設計とは異なり、3次元モデルを用いてインフラ設備の設計、施工から維持管理といったライフサイクルを一元的に管理することができます。BIMを活用することで、より高度なインフラ設備管理を行うことが可能になります。インフラ設備の3次元モデルは、国土交通省がProject PLATEAU(PLATEAU)において、3D都市モデル標準製品仕様として定義しており、既存のインフラ設備情報を3次元モデルに変換することが可能になります。インフラ設備を3次元モデルに変換することで、BIMでインフラ設備を扱うことができるようになり、インフラ設備管理の高度化が可能になります。
今後ベテランオペレータの人員不足や、より一層の業務効率化に対応するためには、これまでの地下設備管理の手法を進化させ、地下設備管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する必要があります。そのための第一歩として、インフラ設備の高精度位置化と3次元化に対応することが必要となります。

■インフラ設備情報の高精度位置化

現実世界のインフラ設備と管理されるインフラ設備情報の位置の許容誤差は、水平位置の誤差0.25m以内・標高点の誤差0.25m以内の誤差精度が適切と考えられます。これは道路台帳附図の位置精度と同様であり、通信設備だけではなく、電気設備やガス設備、上下水道設備などさまざまなインフラ設備どうしの相対的な位置を把握するために必要な精度となります。しかし現在のインフラ設備は、さまざまな背景地図によって位置情報が与えられているため、通信・電力・ガス・上下水道のインフラ設備を重ね合わせても、正しい位置関係を把握することができません。NTTインフラネットでは、この問題を解決するために、地下設備の図面に対して地図情報レベル500の位置精度を付与するための位置基準、高精度3D空間情報を整備しています。高精度3D空間情報は、道路の境界(道路境界、歩道境界、路側帯境界)およびマンホール位置について地図情報レベル500の位置精度で構成されています。各インフラ事業者のインフラ設備情報に対して、高精度3D空間情報を位置基準にアフィン変換などの位置補正をかけることで、高精度の位置情報を与えることが可能になります。各インフラ事業者のインフラ設備情報に対して、高精度3D空間情報を活用して位置補正を行うことで、すべてのインフラ設備情報の位置情報を統合することが可能になり、GISなどで統一的に扱うことができるようになります(図1)。

■インフラ設備情報の3次元モデル化と空間ID

NTTインフラネットでは、2023年に実施されたPLATEAUのユースケース実証に参加し、通信・電力・ガス・上下水道のインフラ設備情報を3次元モデルに変換したうえで、建物建設設計品質の向上やコスト削減につなげられるか確認しました。具体的には、2次元のインフラ設備情報に対して高精度3D空間情報を活用して位置補正を行い、インフラ設備の形状に関する属性情報から3次元モデルを生成する技術の検討および実装を行い、その3次元モデルを活用したBIMによる建物建設設計プロセスにおける効果検証を行いました。結果として建物建設設計プロセスにおいて業務改善効果が95%という非常に良好な結果が得られました。
またNTTインフラネットでは、3次元モデルから経済産業省、国土交通省、国土地理院、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が推進している空間ID化する技術についても取り組んでいます。具体的にはデジタル庁が実施した「デジタルツイン構築に向けたインフラ管理のDXに関する実証調査研究」において、通信・電力・ガス・上下水道のインフラ設備情報の3次元モデルを作成したうえで、空間IDを生成する技術の調査検討を行いました。空間IDとは、空間上のある領域を一意に示すIDのことであり、インフラ設備が存在する地下の領域を表現するものです。空間IDを活用することで、インフラ設備の詳細な情報ではなく、設備が存在する領域だけをさまざまなステークホルダーと共有することが可能になり、今後インフラ設備情報を有効活用した業務DXの促進と、新たなビジネスモデルの創出が可能になると期待されます(図2、3)。

デジタルライフライン全国総合整備計画への取り組み

経済産業省は少子高齢化や人口減少が進む中でもデジタルによる恩恵を全国に行き渡らせることを目的に、2023年度、約10年の「デジタルライフライン全国総合整備計画」を策定しました。2024年度からは先行して社会実装を進めるためのアーリーハーベストプロジェクトが複数進行しています。具体的には、社会実装の推進に向けてNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が「産業DXのためのデジタルインフラ整備事業/デジタルライフラインの先行実装に資する基盤に関する研究開発」を行っており、NTTインフラネットは「地下インフラ情報の流通」というテーマで、NTT東日本、NTTデータ、ほかインフラ事業者とコンソーシアムを組み、さいたま市、八王子市を先行実装地域としたアーリーハーベストプロジェクトに取り組んでいます。
このプロジェクトでは、インフラ事業者が保有する設備情報を空間ID形式により統一的に管理・統制し、相互に占有状況を照会したり、さまざまなアプリケーションでデータを活用したりするためのデータ連係システムの開発を、NTTデータとNTTインフラネットが行っています。インフラ事業者が保有する設備データには機微な情報も含まれるため、適切な情報セキュリティレベルやデータ主権の確保、また将来のシステム拡張や利便性を考慮しています。
加えて、NTTインフラネットでは各事業者の設備情報を統一された共通フォーマットに変換し、統一された位置基準による位置補正や空間IDの付与を自動で行うツールも開発しています。これにより、今後全国のインフラ事業者において効率的なデータの高精度化が進むことをめざしています。
アーリーハーベストプロジェクトにおいては、NTT東日本や電力、ガス、水道等のインフラ事業者が先行実装地域における地下インフラ情報の高精度化を進め、その課題や効率性の検討を行います。また、複数のアプリケーション企業が地下インフラ情報の連携にかかわるユースケース実証に取り組む予定です。NTTインフラネットはSmartInfraプラットフォームをベースに空間ID形式の設備データを照会するインフラ管理DXシステムを開発し、立会受付Webシステムとインフラ管理DXシステムとの連携によりインフラ事業者の業務効率化も検証予定です。

今後の展望

NTTインフラネットでは、経済産業省とIPAが進める「公益デジタルプラットフォーム運営事業者認定制度」も強く意識しています。この制度の活用により、NTTグループ内のDXだけでなく、ほかのインフラ事業者を巻き込んだDXを加速させることを企図しています。こういった流れは、インフラ設備データのデジタル管理や、高精度3D空間情報に関連した技術開発など、私たちNTTグループが長年にわたり取り組んできたことと国の方針が合ってきたことを示しています。この状況を好機ととらえ、培ってきた技術・ノウハウを活かして、社会全体のDXに貢献していきます。

(左から)村上 隆史/千葉 繁

インフラDXに向けた取り組みは、NTTのみならず電力・ガス・上下水道などにおいても喫緊の課題と考えています。今回紹介したNTTインフラネットの取り組みがその一助になればと考えており、幅広く活用いただけるように継続して取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTTインフラネット
スマートインフラ推進本部 インフラDX推進PT
TEL 03-6802-7697

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