特集2
電子地図シリーズ“GEOSPACE”を核とした新たな地理空間情報の付加価値サービス創造の取り組み
- 地図ビジネス
- 空間マネジメント
- 不動産ID
NTT東日本・西日本やNTTコミュニケーションズ・NTTドコモが所有する電柱や地下管路等の設備管理用背景地図として、1970年代に基盤研究が開始されたGEOSPACE電子地図は、2000年にグループ外市場への販売も開始し、現在は、航空写真、地番地図、GEOSPACE CDSや住所情報など多くのラインアップを備え、電子地図を核としたビジネス領域拡大を図っています。さらに近年では、土地や建物と住所情報等を活用し、高精度に物件を特定可能な不動産IDビジネスを推進しています。本稿では、地図情報の整備や変遷、今後のビジネス展開の展望について紹介します。
栗山 雄三(くりやま ゆうぞう)/田島 秀昭(たじま ひであき)
NTTインフラネット
NTTにおける地図ビジネスの変遷
NTTにおける電子地図は、電柱や地下管路などの設備情報をGIS(Geographic Information System:地理情報システム)で効率的かつ精度良く維持管理することを目的として、1970年代からNTT研究所の技術も活用し、各種施設や設備情報を正確にプロット可能で、効率的かつ高精度に維持管理に貢献することができる地図情報として制作され、継続的に販売されています。
2000年にNTTグループ外市場への販売を開始した以降、高精度な地図情報をNTTグループ外へ提供する事業を展開していたNTT空間情報とNTTインフラネットが2020年に合併し、「GEOSPACE」という新しいブランドで電子地図、航空写真、地番地図など多くのラインアップを備え、電子地図を核とするビジネス拡大を図りました。
2020年からは多様なICTを用いて社会インフラ全般の維持・運用業務の高度化をめざしSmart Infra事業を推進するNTTインフラネットに事業を継承し、従来の2500分の1縮尺地図に加え、都市部における500分の1縮尺の高精度3D空間データの整備にも取り組んでいます(図1)。
地図情報サービスの中核を担う電子地図シリーズGEOSPACEは、地図情報レベル2500分の1と大縮尺で精度が高く、国土交通省公共測量作業規定に準拠して撮影された航空写真成果を基に地図制作をしていることから、市街地以外の地域でも家屋の形状が正確に示されています。そのため民間の地図情報としては唯一、国土地理院の基盤地図情報の原典データに採用されています。
NTTインフラネットでは、高い位置精度と全国網羅性を誇る電子地図GEOSPACEを活用し各種サービスやソリューションを提供しています。電力・ガス・通信事業者等のインフラ設備事業者に加え、行政が維持管理する施設情報のスマート化に向けGEOSPACEをベースとした空間マネジメントに活用する取り組みは、今後のSmart Infra構想の重要な要素の1つとなっています。
空間マネジメントビジネスの展開
■GEOSAPCEシリーズについて
GEOSPACEシリーズの商品・サービスを図2に示します。GIS基盤コンテンツとは、GEOSPACEのあらゆる製品・サービスの基盤となる製品群です。電子地図、航空写真、地番地図、行政界ポリゴン、衛星画像といった、いわば「地図や画像そのもの」をラインアップしています。また、コンテンツ単体としても、GISベンダが開発しユーザへ提供する各種GISサービスへの組み込み用途でも活用いただくことが可能となっています。
電子地図、航空写真、地番地図、行政界ポリゴン、航空写真3D、衛星写真のGIS基盤コンテンツはそれぞれGISの背景データとして活用するほか、設備情報や顧客の固有情報と組み合わせた各種分析データとして利用することもできます。
クラウド配信サービス・API(Application Programming Interface)サービスは、GEOSPACEの基盤コンテンツを配信するためのプラットフォームとして、主にGISベンダ向けにGISシステムとの連携サービスを提供しており、サービスの活用シーンとして主にGISベンダが自社のGISアプリケーションとGEOSPACEのGIS基盤コンテンツを連携させた利用を想定しています。また、地方自治体など公共系事業者のセキュアなネットワークLGWAN(総合行政ネットワーク)専用のASP(Application Service Provider)サービスも用意されています。
エンドユーザ向けには、GISエンジンなど特別なソフトウェアやシステムを用意することなくWebブラウザから利用可能なWebサービスが複数用意されており、Webブラウザで簡易に地図利用や加工・編集が可能な「GEOSPACE CDSプラス」や「ちばんMAP」も提供しています(図3)。
GEOSPACEシリーズは、顧客の利用目的に応じたさまざまな付加価値コンテンツ、さらにはお客さま設備データなどを組み合わせることにより、今まで可視化できていなかったものを見える化し、顧客の業務用途や目的に応じた新たなソリューションサービスの開発も行っています。
■地番ビジネスの拡大について
ちばんMAPは法務局が管理する公図をベースに、GEOSPACEの電子地図データを組み合わせて地番筆界付きのベクトルデータとして整備したものとなっています。このちばんMAPと電子地図を重ね合わせることによる付加価値提供は、当社が2024年度以降も継続的に整備と提供を注力している取り組みの1つとなっています。
不動産業界や金融・信託業界では、地番に基づき土地や建物の所有者の確認が必要になることが業務上多く発生し、そのため「ちばんAPI」により地番から住所を、逆に、住所から地番を知る地番検索機能や、緯度経度情報から土地や建物の座標と住所を取得のうえ、さらに地番を知る逆ジオ地番検索機能など、地番ごとの区画の状況(筆界)をポリゴンで視覚的に把握する地番地図配信機能を提供しています。
顧客は、独自に煩雑なアプリケーションを開発することを必要とせず、このような地番検索機能を各種業務システムに組み込むことが可能であり、また、Webブラウザさえあれば各機能を利用可能なのが「ちばんMAP」です(図4)。
当社の地番系サービスは、同等の網羅性や精度、更新頻度や利便性等実現しているため、競合各社の類似サービスと一線を画しており、そのサービスの強みを活かして新たなマーケットにも地番ビジネスの拡大に取り組んでいます。
■地番を軸とした付加価値充実化と事業領域の拡大
当社はGEOSPACE電子地図や地番をはじめとした地図事業をさらに発展させ収益基盤の安定化と拡大につなげるべくさまざまな取り組みを進めているところですが、2025年度においても地番ビジネスの拡大、および2次元地図販売に関するパートナー企業の拡大に注力していく予定です。
現在の49社の販売連携パートナーをさらに増やし、パートナーが自ら開発・提供する各種システムへの組み込み型アライアンスを通じて、既存ビジネス領域および新規ビジネス領域の拡大を図りたいと考えています。
土地と建物にIDを付与し世の中に貢献する不動産IDビジネスの取り組み
「ちばんAPI」や「ちばんMAP」への顧客ニーズの継続的な強さは、土地や建物の所有者情報を迅速かつ正確に把握することに障壁があること、また、土地・建物いずれも、不動産・建設・配達系事業者などで共通で用いられている番号(ID)が存在せず、住所・地番の表記揺れにより、同一物件か否かが直ちには分からない状態となっています。そのため、仲介・開発等の際に、多様な主体が保有する不動産関連情報を独自に収集・名寄せする場面や、消費者に的確な情報発信を行おうとする場面で手間・時間がかかるなど、不動産関連情報の連携・蓄積・活用における課題となっているところです。この課題について検討してきた国土交通省は、2022年3月に不動産IDルールガイドラインを策定し、不動産を一意に特定することができる、各不動産の共通コードとしての「不動産ID」にかかわるルールを整備することとしました。当社が参画した2023年度「不動産IDを活用した官民データ連携促進に向けた実証事業マネジメント等に関する業務」ではユースケース開発に向けて、不動産登記データ(土地・建物)を原典とした不動産IDの付番、アドレス・ベース・レジストリを活用した住所表記の揺らぎ補正、登記所備付地図、基盤地図情報、GEOSPACE地番地図、GEOSPACE電子地図による座標付与を行い、実証事業の支援を行いました。
当社はGEOSPACEの高精度な電子地図データを不動産IDの付与や管理に活用していくことを前提に、国土交通省への提案活動と並行して国の施策と連携した不動産IDに関する実証に参画しているほか、国土交通省の行う他のさまざまな実証事業に参画したビジネスモデルづくりなど、近い将来の商用化を視野に入れ検討を進めているところです。
さらに、国は不動産ID以外にも、上空や地価を含み、多様なビジネスに展開可能な空間マネジメントビジネスへの利用を目的とした空間IDの検討、準備も進めています。
活用事例と今後の展望
近年の当社の主力地図配信サービスである「GEOSPACE CDS」と地番の筆界を配信する「ちばんAPI」を不動産企業の「業務支援向けシステム」とAPI連携させ、不動産の新規売買の見込み物件や収益物件の家屋形状・住所情報・土地面積などを地図上から抽出しさまざまなビジネスシーンで活用することで、物件の商圏情報を基にした見込み収益予測や、営業先リストの作成、さらに「不動産受付帳データ」を活用し、相続のタイミングでピンポイントに顧客へアプローチをするなど、不動産取引の状況や傾向をつかんだ営業戦略の立案に活用いただく事例も顕在化してきており、当社にとってこれまでになかった新たなサービス展開とマーケット掘り起こしが期待されています。
このほか、金融業界では、担保物件の管理や登記情報調査のための地番照会や、住宅ローンの新規・借換え、リフォームローン、不動産担保ローンの販売先リスト抽出、小売業界などでは、店舗出店計画のための物件抽出や駐車場候補地の抽出などでも活用いただいています。
このように当社のGISデータと導入企業様が独自に保有するデータ、ハザードマップなどの公的データ、そのほかあらゆるデータを融合させることで、業務の効率化だけでなく、生産性の向上、さらには新たなビジネス領域の拡大が生み出せると考えており、引き続きGEOSPACEシリーズの整備と利用拡大に向けて取り組んでいきます。
(左から)栗山 雄三/田島 秀昭
問い合わせ先
NTTインフラネット
スマートインフラ推進本部 GISビジネス部
TEL 03-6381-7925
E-mail gis-sales-gm@nttinf.co.jp
スマートインフラ推進本部 GISビジネス部は、世の中への「基盤地図情報GEOSPACE」や「不動産ID」等の利用拡大と顧客利便性向上に向けて、国の進める施策と連動しながらさらなる整備と開発を着実に実施していきます。これにより、さまざまな社会課題の解決に向け貢献するとともに、当社プレゼンスを高め、新たなビジネス創造・付加価値ビジネス創造を図り、豊かな社会の実現をめざしていきます。