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特集2

新しい社会のインフラをつくり、次の時代につなぐ、ソーシャルインフラ・イノベーション

社会要請が高まる無電柱化のスピードアップに向けた取り組み

インフラネットの主力事業の1つである無電柱化事業は、防災上、景観上の観点から社会要請となっており、国も推進しています。しかし、無電柱化を完遂させるまでには、多くのステークホルダーと調整する必要があり、我が国で無電柱化が進まない要因の1つとなっています。本稿では、減少が進む行政職員に成り代わりステークホルダーとの調整を担い、BIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)等の新技術を活用しながら、無電柱化の推進に取り組んでいる内容について紹介します。

北本 拓也(きたもと たくや)
NTTインフラネット

無電柱化事業の現状と課題

これまで無電柱化は、防災性の向上、安全性・快適性の確保、良好な景観形成の観点から実施してきましたが、近年、災害の激甚化・頻発化、あるいは高齢者の増加等により、その必要性が高まっています。
特に、近年の台風や豪雨等の災害では、倒木や飛来物起因の電柱倒壊による停電ならびに通信障害が長期間におよぶケースも報告されており、電力や通信のレジリエンス強化も求められています。
1986年から進められてきた無電柱化事業ですが、諸外国に比べ我が国の整備率は低く、国内でもっとも進んでいる東京23区内においても約8%となっています。
そのような中、2016年に「無電柱化の推進に関する法律」が成立し、2021年5月には法律に基づく「無電柱化推進計画」が策定され、5年間で4000km(800km/年)の無電柱化事業を着手するとの目標が掲げられました。
一方、無電柱化を推進する市区町村長の会が自治体に行ったアンケートでは、無電柱化事業における課題として、「合意調整が難しい」「事業期間が長い」等があがっており、我が国で無電柱化が進まない要因となっています。
無電柱化を推進する主体は、国や地方公共団体ですが、少子高齢化を背景とした行政職員の不足、税収減、気候変動による大規模災害等、行政が抱える課題は複雑化・多様化し行政職員1人当りの負担は増加しているものと考えられます。
NTTインフラネットでは、「新しい社会のインフラをつくり、次の時代につなぐ」という我が社のパーパスを果たすべく、無電柱化の推進という社会課題の解決に向け、スピードアップの方策やそれを支えるBIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)等のDX(デジタルトランスフォーメーション)技術を活用しながら、無電柱化事業へ積極的に取り組んでいます。

無電柱化スピードアップに向けた方策

■電線共同溝PFI事業への参画

当社は2018年より電線共同溝PFI(Private Finance Initiative)事業を受注し、現在、全国で9事業を実施しています。その事業フィールドの中で、我が国で無電柱化が進まない要因となっている各種課題の解決に取り組んでいます。
無電柱化事業は、沿道に住民が居住する共用中の道路で行われることが多い事業です。このため、地元住民、電柱・架空線を保有する電力・通信企業、ガス・上下水道等の埋設企業および警察など、調整が必要なステークホルダーが非常に多いことが特徴であり、「合意調整が難しい」ことが課題です。
PFI事業では、これまで道路管理者が行っていたステークホルダーとの調整を、受注した私たちPFI事業者が調整マネジメント業務として担い、道路管理者の負担を大幅に軽減させることが可能となります(図1)。
また、PFI事業者は設計・施工一体の包括発注の中で、長期にステークホルダーとのかかわりを持てるようになり、関係構築による円滑な合意調整が可能となってきます。
「事業期間が長い」という課題に対して調整マネジメント業務の中で、後述するフロントローディングやコンカレントエンジニアリングの実践により、大幅な事業期間の短縮が可能となっています。

■包括委託方式への挑戦

2023年の台風6号は沖縄に大きな被害を与え、架空線断線による大規模な停電が長期化しました。沖縄県は当時の岸田文雄首相に対し、早期無電柱化を要請するなど、無電柱化に対する社会的気運はますます高まっています。こうした中、国土交通省の要請により、電力各社、NTTが共同で導入を検討しているのが「包括委託方式」による、より迅速に無電柱化を可能とする発注スキームです。
包括委託方式は、入札で発注されるPFI事業と異なり、行政から電力、通信企業へ委任委託で発注されるものです。
その特徴としては、PFI事業と同じように、①設計と施工が一体で発注されること、および②調整マネジメント業務があることです。これにより、PFI事業と同じくフロントローディングやコンカレントエンジニアリングが実践でき、大幅な事業期間の短縮が可能となります。
また、電線共同溝PFI事業は、事業化する前に導入可能性調査を実施するなど行政側の発注準備に約1年必要となりますが、包括委託方式ではそのような手続きは不要となり、事業化までの期間短縮が可能となります。
包括委託方式は、行政サイドとしては事業化までのリードタイムが短くなることで、早期の無電柱化が図れるなどのメリットがあり、受注者サイドとしても複数年にわたる事業であるため、事業のストック化やリソースの平準化が図れるなどのメリットがあり、導入拡大に向け、積極的に取り組んでいきたいと考えています。

■スピードアップを支えるフロントローディング、コンカレントエンジニアリング

前述していた、無電柱化のスピードアップに寄与するフロントローディングやコンカレントエンジニアリングについて改めて詳述します。
フロントローディングとは、事業初期の工程(フロント)において作業負荷・コスト負担をかけて検討を行い、後工程で生じそうな仕様変更や手戻りを未然に防ぐことで、品質向上や工期の短縮を図ることです。
具体的な取り組みとしては、調査段階に非破壊探査と試験掘を併用した詳細な地下埋設物の現況把握を行った後、設計段階にBIM/CIMモデル構築による高精度な設計を行います。調査・設計段階に作業負荷を掛けることとなりますが、後の施工段階での手戻りを削減できますので、結果として事業期間のスピードアップにつながっています。
また、設計・施工一体発注のPFI事業や包括委託方式のため可能となったことですが、施工会社が設計段階から関与することができ、現場技術者の経験を活かし、現場により即した設計を行うことが可能となります。この点でも設計段階に負荷をかけることになっていますが、施工段階での手戻り防止に大きく貢献します。コンカレントエンジニアリングとは、複数の工程を同時並行で進め、各部門間での情報共有や共同作業を行うことにより、期間の短縮やコストの削減を図ることです。
従来の無電柱化事業では、予備設計、詳細設計、支障移転工事、本体工事、引込・連系管工事から入線・抜柱工事まで、各工程を順番に実施しています。
一方、PFI事業や包括委託方式では、調整マネジメント業務を担っている当社が、支障移転工事と本体工事を同時に施工することや本体工事と引込・連系管工事を同時に施工することを各埋設企業等のステークホルダーと調整し、大幅なスピードアップを図っています。

スピードアップを支えるDX技術

■無電柱化事業へのBIM/CIM積極活用

次に、フロントローディングの中で前述していたBIM/CIM活用について紹介します。
BIM/CIMとは、土木や建築分野における調査、設計、施工、維持管理において、3次元のモデリングデータを活用して設計の最適化や工事の品質向上、維持管理の効率化を図る取り組みです。
無電柱化事業では、地中の埋設物を3D化して地中管路の設計を行うだけでなく、地上の構造物も3D化して重機がどのように稼動するかを3Dで可視化するなど、多様な活用を図っています。
具体的な活用の1つとして、3Dモデル化により、従来の2D設計図では判別できなかった地中の既設埋設物と新設管路の干渉チェックを行っています。干渉チェックを行いながら3D設計を行うことは負荷となりますが、フロントローディングにより後々の手戻り防止や支障移転工事を最小化することなどが可能となります(図2)。
施工段階でもBIM/CIMを活用することにより、地中の既設埋設物をAR(Augmented Reality)グラスなどで作業前に把握でき、重機で掘削する際に水道管やガス管等を破損するといったトラブルを防止できます。
AR活用に関しては、現場作業のスピードアップにもつながっています。電線共同溝の管路は電力系、通信系を合わせ10条以上の多条敷設となることも多く、既設埋設管を避けながら縦断・横断の同時カーブで配管するときなど、ベテラン作業員でも施工後の配管状況をイメージすることが難しい場合があります。AR活用により、新設管路と既設埋設管を3Dで可視化させたものを作業前に確認することで、経験の浅い作業員にも配管状況をイメージしやすくし、結果、配管作業の進捗アップにつながっています(図3)。
また、狭隘部のクレーン作業において、架空線との干渉チェックを行うことにより安全性向上が図れるなど、BIM/CIMを活用することによるメリットは多いです。
さらに、維持管理段階についての検討も進めています。現在は目視による点検が中心ですが、NTTグループでは、すでに電柱間や建物等をつなぐ架空線の切断、垂れ下がり、マンホール内のひび割れなどをAI(人工知能)による画像診断で判定できる技術があるため、その応用により電線共同溝の点検を実施するといったことも検討しています。

■地下埋設物の高精度把握

前述したBIM/CIM活用方法を効果的に実施するためには、①工事前の道路地下空間=既設埋設物状況の高精度な把握と、②高精度な現況3Dモデルを設計、施工などの各フェーズにおいて適切に更新するためのデータ最新性の確保が重要です。
水道やガスといった既設埋設物は管理台帳があるものの、ベースとなる図面が違うことなどが原因により、各社の管理台帳を重ね合わせても、実際の道路に埋められている位置と整合しないことが多いです。
このことから、当社では、地下埋設物探査をベースとした事前調査による高精度な現況3Dモデルの作成に取り組んでいます。
埋設探査の測定精度は現場環境に影響されやすいことやレーダの技術的特性から、これまで測定精度の確保が課題でしたが、部分的に試験掘を行い「試験掘による探査結果の補正」に取り組んでいます。
これにより、前述した干渉チェックの検討結果に意味を持たせ、BIM/CIMの導入効果を発現させています。
また、試験掘溝の計測をこれまでのオフセット計測ではなく、点群測定にて実施することにより、現場作業の省力化を進めるなど、「事前調査」の改善を図っています(図4)。

おわりに

NTTインフラネットでは、社会要請となっている無電柱化のスピードアップに向けて、電線共同溝PFI事業へ積極的に参入し、その事業の中で、フロントローディングやコンカレントエンジニアリング等の方策を取り入れ、BIM/CIM活用やその効果発現のための地下埋設物探査等のDX技術を実践してきました。
その成果として、2018年に受注した整備延長2.3kmの愛媛県松山市内における電線共同溝PFI事業では、設計から本体工事まで、従来なら8年は必要とされるところ4年で完成させています。さらに、入線・抜柱までの無電柱化の完了までは、従来なら12年必要とされるところ7年で終了させる予定で進めています(図5)。
また、地下埋設物の「デジタル化による設備保守」は、将来のあるべき姿と考え、その実現に向け、バックキャスティングしてBIM/CIMの活用促進、さらにバックキャスティングして地下埋設探査の導入促進に取り組んでいます(図6)。
包括委託方式のような新たな事業手法、BIM/CIMや探査データの補正等の新技術の登場により、無電柱化事業を完結するまでの方策は日々変化しています。
当社が保有する無電柱化事業に関する豊富な経験を活かし、これからも積極的に新しい手法や技術を導入し、社会が求める無電柱化のスピードアップにこたえていきます。

北本 拓也

無電柱化は、道路の防災性向上における重要な施策の1つと位置付けられ、国策としても推進されている事業です。NTTインフラネットは、無電柱化のさらなるスピードアップに向け、今後も最新技術等を積極的に導入し、国策の推進に寄与していきます。

問い合わせ先

NTTインフラネット
ソーシャルインフラデザイン本部 ビジネス推進部
TEL 03-6381-6434
E-mail kitamoto-takuya@nttinf.co.jp

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