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2025年6月号

特集

NTTグループの一次産業分野の取り組み

NTTグループの一次産業分野の取り組み

一次産業は地球温暖化に伴う気候の変動、一次産業の担い手の減少等さまざまな課題に直面しています。NTTグループは持続可能な一次産業の実現をめざし、農畜産業、水産業、林業等のさまざまな分野のスマート化に取り組んでいます。本稿では、NTTグループの一次産業における取り組みの発展について紹介します。

村山 卓弥(むらやま たくや)
NTTアライアンス部門

一次産業分野の課題

一次産業は食糧や資源の生産を担い、社会、地域経済の基盤となる重要な産業です。しかし現在、さまざまな課題に直面しています。一次産業分野では地球温暖化に伴う気候の変動、就業人口の減少および高齢化が進んでいます。農業分野を例にとると、基幹的農業従事者数は、2000年の約240万人から2023年には約116万人と半減し、その年齢構成のピーク は70歳以上の層となっています(1)。さらに、2050年には、2020年に比べ農業従事者が4分の1にまで減少することが予想されており、今より少人数でも効率的に農業生産を可能とする技術が求められます。食糧生産の維持に必要なのは一次産業従事者の減少への対応だけではありません。地球温暖化に代表される、気候変動は農作物の生育や栽培適地の変化、家畜の成長や繁殖、水産資源の分布などに影響を与えており、対応が求められます。また一次産業は気候変動から影響を受けるだけでなく、与える側面も持っています。例えば、膨大な食品廃棄物食品の加工過程で生じる不使用部分や期限切れ食品等の食品廃棄物の発生量は膨大であり、日本全体での年間発生量は2500万トンにも及び、焼却による大気汚染が懸念されます。意外に思うかもしれませんが、森林伐採の減少も地球温暖化を加速させるおそれがあります。樹木は成熟すると光合成による二酸化炭素吸収量よりも排出量が増えるためです。二酸化炭素吸収量の多い若い樹木の生育を促す森林管理を、農業等と同様に従事者が減少している林業でいかに実現するかは難しい課題です。

NTTグループの取り組み

このような背景の中、NTTグループとしても一次産業を重点取り組み領域と位置付け、グループをあげて持続可能な一次産業の実現に向けて取り組んでいます。NTTの新中期経営戦略ではスマート農畜産業やスマート養殖など5つの分野でのビジネス創造を目標に掲げています(図1)。本特集では、図1の各分野における主な取り組みや、最新の取り組みについて紹介します。
NTTグループの取り組みは、作業効率化を実現するセンシングや分析、ドローンソリューションといったソリューション提供から始まりました。近年はソリューション提供だけではなく、自ら生産することにより生産技術を高度化させながら、生産物の販売と他の生産者への資材、ソリューション提供を両輪で推進する事業モデルの実現にも取り組んでいます。さらに、バリューチェーンの中でより事業規模の大きい流通、販売事業に生産現場の情報をつなぐことで、生産現場のデジタル化にかかる費用を負担してもらい、一次産業従事者に大きな費用負担なくデジタル化を推進していけるような取り組みにも力を入れています。
NTTアグリテクノロジーは、農業分野におけるソリューション提供、生産、流通、販売と食農バリューチェーン全体を幅広く網羅する取り組みを進めています(本特集記事『農業の新しいカタチを創り、食の安定供給に役割を果たす』)。NTTアクセスサービスシステム研究所はNTTアグリテクノロジーと連携し、農業において効率化が求められる作業の1つである、収穫作業の効率化をめざしてネットワーク・サーバ連携制御による遠隔収穫ロボット操作の実証に取り組んでいます(本特集記事『エッジコンピューティングにおける品質制御技術を用いた遠隔操作によるイチゴ収穫実証』)。
農業分野と同様に、NTTグループでは水産分野でもスマート養殖を実現するソリューション提供、自ら生産者となることでの生産技術高度化に取り組んでいます。NTTグリーン&フードは陸上養殖事業を営み、魚介・藻類生産に取り組んでいます(本特集記事『循環型陸上養殖による食料・環境問題解決、地域貢献』)。NTTグリーン&フードの陸上養殖施設では、NTTアノードエナジーとの連携による再生可能エネルギーの活用も検討しており、循環型社会の実現に向けた取り組みを積極的に進めています。陸上養殖は気候変動の影響を受けづらく、定量定質な魚介類の提供が可能となり、工業生産同様に作業従事者の負担を抑えられる新たな産業として注目されており、NTTグループとしても近年力を入れている領域です。現在すでに複数の事業会社で取り組みを進めており、NTTグリーン&フードが魚介類の生産・販売、NTTアグリテクノロジーが陸上養殖プラント設計・施工、NTTアクアが陸上養殖のICTシステムの提供、とそれぞれ主な領域を分担し、グループ全体として水産陸上養殖事業の確立と生産する魚介類の付加価値向上を実現し、持続可能で地域に貢献できる産業創生をめざして取り組んでいます。
農業、水産業以外にも畜産、資源循環、林業へと、NTTグループの取り組みは一次産業のさまざまな領域に拡大をしています。NTTコミュニケーションズは、畜産の効率化につながる、牛の状態の見える化等のスマート畜産ソリューションの開発・拡大に向けた開発や実証に取り組んでいます(本特集記事『スマート畜産に向けたNTTコミュニケーションズの取り組み』)。食品廃棄物を堆肥化し循環型社会を実現する「地域食品資源循環ソリューション」を提供するNTTビジネスソリューションズは、技術の高度化、食品にとどまらない水資源循環等実現に向けた事業の拡大に取り組んでいます(本特集記事『地域食品資源循環ソリューションの新たな取り組み』)。NTTドコモは、農業・林業において効率化が求められる作業の1つである、除草に関するセンシング・自動化技術について取り組んでいます(本特集記事『農業の自動化を支える2大技術としてのドローンセンシング・ロボット自動化』)。

NTTグループの連携促進・PR

これまで紹介した内容以外にも、NTTグループはさまざまな取り組みを進めています。図2はNTTグループにおける一次産業のソリューション、グループ連携による取り組みをまとめた表です。このようなグループ連携を進めるため、「NTTグループ農業ワーキング(農業ワーキング)」の運営にグループ一体で取り組んでいます。参加するグループ会社は年々増加し、現在40社が参加する大規模なワーキングへ成長しました。
農業ワーキングでは、NTTグループ内で保有するアセットやケイパビリティを共有するとともに、国内外の取り組み状況も共有しグループ全体として最適な組合せで、サービス提供や外部パートナーとの連携が実現するよう調整を行う機能も持たせています。毎回100〜200名のメンバが集まり交流する機会となっており、今ではすっかりグループ内に定着しています。また、農業ワーキングのPR活動の1つとして、国内外のスマート農業のソリューションや製品が一堂に集まる、国際スマート農業EXPOへNTTグループとして継続的に出展を行っています。農業ワーキングの発展に伴い、年々出展参加会社が増え、2024年の7回目の出展では11社が参加する大規模な集合展示となりました(図3)。展示会では毎年、NTTグループが一次産業分野に取り組んでいることへの来場者の認知度を調査してきました。出展開始当初はほとんどの来場者に認知されていませんでしたが、繰り返し規模を拡大して出展を重ねることで、2024年の出展では来場者の48%、約半数に認知される状況まで認知拡大が進みました。また図4はNTTグループ会社と外部パートナーとの連携マップですが、全国各地でさまざまなパートナーと取り組みが進められています。このように外部パートナーとの連携が拡がってきたのは、農業ワーキングのPR活動を通し、NTTグループが一次産業に取り組んでいるということへの世の中の認知が進んできたことも影響していると考えられます。2025年の週刊ダイヤモンドの特集「儲かる農業2025」では、農家が「期待する農業参入企業・農協組織」ランキングでNTTグループが1位を獲得(2)しており、NTTグループの一次産業の取り組みPRが順調に進んでいることを示す1つの結果だと考えています。

万博での取り組みPR

2025年は例年出展している国際スマート農業EXPOだけでなく、大阪・関西万博でも北海道大学と連携し、NTTグループの一次産業の取り組みをPRしています。
NTTグループは、最先端の農業機械をはじめとするロボティクスの自動運転技術に高精度な位置情報、5G(第5世代移動通信システム)、AI(人工知能)等のデータ分析技術等を活用した世界トップレベルのスマート農業の実現と社会実装、およびスマート農業を軸としたサステイナブルな地方創生・スマートシティのモデルづくり等をめざし、北海道大学、岩見沢市と産官学連携協定を2019年から締結し(3)、ロボット農機の遠隔監視による無人状態での完全自動走行、遠隔操縦に関する技術の研究や、社会実装に向けたビジネスモデルの検討等に取り組んできました。
研究では、都市部と異なり十分な通信環境が整っていないことも多い広大な農地における、不安定なネットワーク環境での安定的なロボット農機の遠隔監視・遠隔操縦実現に向けた、協調型インフラ基盤のフィールド実証に取り組みました(4)(5)。実証を通して得た知見を基に技術を高度化し、現在は自動運転バス等へも適用対象を拡げています(6)
ロボット農機の遠隔監視の社会実装に向けたビジネスモデルの検討では、農林水産省のスマート農業実証プロジェクトをとおして実際の農作業にロボット農機の遠隔監視を適用し、ロボット農機を活用した作業委託が見込みのあるビジネスモデルであると知見を得ました(7)。現在は実証で得た知見を基に産官学連携協定で事業化に向けた検討を進めています。
さらに2025年度からは、農業分野だけでなく、一次産業全体の高度化をスコープとした新たな共同研究を北海道大学とNTTの2者で開始しました(8)。まずは農業をフィールドに、超省力かつサステイナブルな農作業の自動化につながる、圃場のデジタルツイン、ロボット農機を安全に遠隔監視・操縦するロボティクスの実現をめざした研究テーマから研究に着手し、一次産業の他の領域へも取り組みを拡大させていく予定です。
万博では、これまでの連携をとおして北海道大学が培ってきた、自動農機の制御技術と、NTTが誇る次世代ネットワークIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)*1 APN(All-Photonics Network)*2を組み合わせた、リモート農業の実演展示を行います。北海道大学の圃場にあるロボット農機を万博会場にて距離を感じずに遠隔監視・操縦することを実現します(図5)。万博会場と北海道大学の圃場は約1200km離れており、通常大容量な映像を長距離伝送する際に生じる遅延により、伝送映像を見ながらの遠隔操縦は困難となります。本展示では、万博会場と北海道大学の圃場間をNTTグループがこれまで培ってきた経験と技術力で通信サービスをさらに進化させた、低消費電力・大容量高品質・低遅延を特徴とする次世代ネットワークIOWN APNで遠隔操縦システムとロボットトラクタをつなぐことで低遅延な映像伝送を実現し、遅延を感じることなく遠く離れたところにあるロボットトラクタを操縦可能にします。
展示ではロボット農機が遠隔操縦されている場面を見るだけではなく、来場者自らが実際に万博会場から、北海道大学の圃場にあるロボットトラクタの遠隔操縦を体験することもできます。未来の農業を体験できる貴重な機会ですので、ぜひご来場いただければと思います(図6)。

*1 IOWN:ネットワークだけでなく端末処理まで光化する「APN」、サイバー空間上でモノやヒトどうしの高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタルツインコンピューティング」、それらを含むさまざまなICTリソースを効率的に配備する「コグニティブ・ファウンデーション」の3つで構成されます。
*2 APN:ネットワークから端末、チップの中にまで新たな光技術を導入することにより、これまで実現が困難であった超低消費電力化、超高速処理を達成します。1本の光ファイバ上で機能ごとに波長を割り当てて運用することで、インターネットに代表される情報通信の機能や、センシングの機能など、社会基盤を支える複数の機能を互いに干渉することなく提供することができます。

今後の取り組み

今後はさらに、多数あるNTTグループのサービスやソリューション組み合わせることによるシナジー効果を生み出していきたいと考えています。さまざまなサービスを束ね、一次産業従事者の経営にトータルで価値を示していくことが、一次産業で幅広い取り組みをしているNTTグループの責務であると考えています。農業分野であればNTTアグリテクノロジー、水産分野であればNTTグリーン&フードなど各分野で生産を担う会社へ関連サービス、ソリューションを集約してトータルソリューション化し、経営全体への事業導入効果をより分かりやすく示すことにより、NTTグループの商材を活用した生産がもたらす価値を訴求し、NTTグループの一次産業のさらなる貢献につなげていくことをめざします。
また、一般的に投資余力が限られている一次産業における課題解決を推進していくため、バリューチェーン全体で連携し、生産領域の変革に必要な資金を集める仕組みを構築することが必要と考えます。新たな取り組みとして、「一次産業」×「○○」のように他業態との業態横断によるマネタイズモデルを増やしていくことにもNTTグループとしてチャレンジしていきたいと考えています。持続可能な社会を実現し、NTTの事業としても拡大できる、そんな一次産業の実現をグループ一体で取り組んでいきたいと思います。

■参考文献
(1) https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r5/index.html
(2) 週刊ダイヤモンド:“儲かる農業2025,”ダイヤモンド社,2025年4/5号,2025.
(3) https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/06/28/190628a.html
(4) https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/11/16/201116b.html
(5) https://journal.ntt.co.jp/article/520
(6) https://journal.ntt.co.jp/article/30199
(7) https://www.city.iwamizawa.hokkaido.jp/material/files/group/11/r2_5g_A01.pdf
(8) https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/04/07/250407a.html

村山 卓弥

一次産業の維持・発展に向け、NTTグループ内外のパートナーとの連携推進にこれからも取り組んでいきます。一次産業以外の業態との連携も検討していますので、一次産業関係者に限らずご興味ある方はご連絡ください。

NTT研究開発マーケティング本部
アライアンス部門

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