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2026年3月号

挑戦する研究開発者たち

Smart AI Agent®で未来を創るプロジェクト管理システムのエキスパート

「担当業務に集中したい」「面倒くさい定常業務から解放されたい」「上司に効率良く報告をしたい」「プロジェクトの進捗を効率的に把握したい」「トラブルの要因を正確、スピーディに理解したい」。このような要望と真摯に向き合うNTTデータグループの菅原康友氏は、プロジェクト管理の効率化を支援するソリューション開発のエキスパートです。今回のインタビューでは、昨今急速に発展した生成AI(人工知能)を搭載したシステムにおいて、どの機能まで実現できるようになったのか、将来どこまで発展させることができるのか、そしてAI時代に必要な技術者育成とは何かをお伺いしました。

菅原康友
AI技術部 シニアR&Dスペシャリスト
NTTデータグループ 技術革新統括本部

高まる生成AI×プロジェクト管理への期待にNTTデータグループのノウハウを結集し、最新のソリューションを創出

現在手掛けている開発テーマについて教えてください。

本誌2025年7月号「挑戦する研究開発者たち」正野勇嗣のインタビューでは、Smart AgentをNTTデータグループの取り組みとして掲げ、今後積極的に展開していく旨の話をさせていただきました。その後、このSmart AgentはNTTデータグループがめざす「AIエージェント」の世界観、コンセプトとして、Smart AI Agent®*1として商標化されました。そのような中、私は現在このSmart AI Agent®のプロジェクト管理分野を所掌しています。当社には、システム開発に必要な、開発手順・フレームワーク・開発支援ツールをパッケージ化したTERASOLUNA®*2という総合ソリューションがあります。現在、TERASOLUNA Suite 2.0 powered by Smart AI Agent®として、こちらのAI化に取り組んでおり、私の活動もその1つに位置付けられています(図1)。
一般的に、開発業務におけるプロジェクト管理が占める割合は、バグの報告等、開発者の管理にかかわる作業も含めると2割弱といわれていますが、私たちはガートナーのレポート、すなわち「2030年までにプロジェクト管理タスクの80%がAIで代替される」という予測に着目し、自社のプロジェクト管理システムへいち早くAIを搭載していく方向へと舵を切りました。そういった流れで上述の2030年の80%達成に向けたロードマップを策定し、まずは2027年に40%のマイルストーン達成に向けた取り組みを開始しました(図2)。
また、プロジェクト管理工数全体において各管理分野が占める割合をAI技術部にて調べた結果、進捗管理が38%、品質管理が27%と判明し、まずはこの2つの分野を重点的に進めています。一方で、問題・課題管理やリスク管理など、その他のプロジェクト管理の分野へのAI適用についても、各開発プロジェクトの現場で進められており、私たちはこうした開発現場で蓄積されたノウハウも吸収し、本取り組みへ反映することで、AI活用の高度化・展開のスピードアップを図っていきます。
次に私たちが開発したプロジェクト管理向けソリューションの内容について触れていきたいと思います。プロジェクト管理をサポートする観点から大きく2つのソリューションに大別されます(図3)。1つはプログラマーやテスターといった現場で実際作業をされている「開発者向けのソリューション」です。もう1つはプロジェクトの活動情報を集めて、分析・判断していく「管理者・リーダー向けのソリューション」です。
まず「開発者向けのソリューション」について説明します。本ソリューションは、進捗管理と品質管理の両面から開発者の作業を支援し、その結果として管理者が活用する情報の質を高めることを目的としています。
進捗管理では、例えばスケジュールに不整合が生じた場合、タスクの計画や実績を基に、AIが客観的に指摘を行います。どの部分に無理が生じているのか、どのように修正すべきかといった点についてヒントを提示することで、開発者自身が早い段階で課題に気付き、軌道修正できるようサポートします。
品質管理では、AIの力を借りながら正確な情報をスピーディにバグチケットに記入できるようサポートします(図4)。開発者もベテランのエキスパートから新人の初心者までスキルや経験はさまざまです。正しく故障原因を記入しないと、その後に深い分析ができませんし、後続のアクションも正しく取れないでしょう。内容が分からずチケット起票者に改めて問い直すなど、手戻りが生じ無駄な工数がかかってしまうことも多々あります。このようなとき、このソリューションが記述の問題点を指摘し修正してくれるのは、品質向上と業務効率化の両面で大きなメリットとなります。
このように、開発者の段階から情報の質を高め、最終的に管理者が分析に活用する情報の質を上げていくことがこのソリューションに期待されるところなのです。
次に「管理者・リーダー向けのソリューション」について説明します。このソリューションは「開発者向けのソリューション」を用いて登録されたタスクの情報やバグの情報を自動的に収集し、開発プロジェクトの進捗やプロダクトの品質について、AIの力を借りて重要な点の把握とその後の意思決定をサポートします(図5)。
プロジェクトは複数のチームで構成されていますので、進捗管理では各チームそれぞれにおけるタスクのトレンドや遅延の有無などをサマリーとしてレポートします。加えて、進捗が滞っている場合には、その原因として想定される要因の考察や、改善に向けた対策案についてもAIが提示してくれます。これにより、管理者は状況把握に多くの時間を割くことなく、対応方針の検討に集中することができます。
一方、品質管理では、日々の品質状況についても進捗管理と同様にサマリーをレポートしますが、加えて、開発工程の節目で実施される、「リリース可否」を判断する品質判定会議向けに、報告書を自動で作成する機能も備わっています。
このソリューションでは定量的な分析と定性的な分析の両方に対応しており、定量分析では、テスト密度やバグ検出密度を機能単位や処理単位で数値化し、それらの値を評価したうえでAIが見解を示します。
また定性分析では、当社が保有する品質分析の仕組みに基づき、バグを「発見手段」「発生工程」「現象の内容」など複数の視点で分類し、その分類パターンごとにAIが深く分析を行います。例えば特定の分類において特定機能で多くのバグが発生している場合には、それらのバグから想定される構造的・本質的な問題点についても指摘することができます。
こうした分析はこれまで人間が取り組んでいたわけですが、このプロセスを網羅的に実行するには莫大な工程が必要であり、人間の手だけでは現実的な時間内で分析を完結することは実質不可能でした。そのため、実際には大量の情報の中から、特定の機能やモジュールにおいてバグ件数が多く報告されている個所など、影響が大きいと判断される一部の領域に分析対象を絞らざるを得ない状況でした。しかし、AIを活用できるようになったことで、こうした定性分析に対しても、網羅的かつ短時間で実施することができるようになりました。その結果、従来は見過ごされがちであった潜在的な問題や構造的な課題についても把握できるようになり、システム開発のプロセスにおける真の問題点を迅速に見つけ出せる世の中がやってきたなと実感しているところです。
さらにこのソリューションでは、報告書を作成するだけではなく、管理者はレポート内容についてAIと対話しながら詳細を確認することもできます。これまでは、管理者が疑問点を分析担当者に確認し、必要に応じて差し戻しを行うといったやり取りが必要でしたが、このソリューションのおかげで、管理者は必ずしも担当者を介することなく業務を進めることができるようになります。

*1 「Smart AI Agent®」は、株式会社 NTTデータグループの英国および日本国内における登録商標、米国、欧州連合における商標です。
*2 「TERASOLUNA®」は、株式会社NTTデータグループの登録商標です。

不具合の発見から修復までAIにすべて任せる時代がやってくる

今後の展望についてお聞かせください。

まず、本ソリューションの導入効果として、2027年にプロジェクト管理に要する稼働の4割削減を目標としています。前述のとおり、プロジェクト全体に占める管理業務の稼働割合は2割弱ですので、仮に総額100億円規模のプロジェクトを想定した場合、管理業務に相当するコストは約20億円となります。このうち4割を削減できれば、金額換算でおよそ8億円の削減効果が見込まれます。さらに2030年度には、最終目標としてプロジェクト管理稼働の8割削減をめざしていきます。
システムにおけるAI化の将来については、AIに任せられるタスクをさらに見つけ出し、そしてAIにできるだけ任せられるようシステムも一層進化させ、従来人間が実施してきたタスクを随時AIに移行していく運用を推進します。具体的には以下のとおりです。
まず現在、データの集計といった定型的なタスクは、すでにAIで実現できていると認識しています。一方、現在では一部の実現にとどまっているものの、近い将来に実現できそうなタスクの例として、先ほどお話ししたバグの情報を分類するタスクが挙げられます。現在、このタスクは人間がバグの内容を読み取り、原因や特徴を判断したうえで、どの分類に属するかを判断しています。このような熟練者に委ねられてきた高度な判断を伴うタスクもAIが担える段階に入りつつあります。
将来的には、単にバグを整理・分析するだけでなく、過去の発生傾向や構造的な課題を踏まえ、「どこに重点的にテスト資源を投入すべきか」「どの品質リスクに先手を打つべきか」といった戦略的な品質判断までをAIが提示する世界をめざしています。人間は、その結果を基に最終判断を行う立場へと役割を進化させていきます。
また、現在は主にバグチケットの情報を基にAIが動作していますが、今後は計画書や設計書、プログラムといったプロジェクト全体の一次情報を包括的に利用し、より高度な回答が得られるよう取り組みを加速していきたいと考えています。
さらに一歩進めば、AIは「分析する存在」から「実行する存在」へと進化します。品質上の課題を検知するだけでなく、その報告を製造やテストのエージェントと連携し、不具合のある個所をAI自らが修正する。そういった品質改善のサイクルそのものをAIが回し続ける世界になればと考えています。
また開発現場においても、人手による進捗報告やチケット起票に依存しない姿を描いています。設計書やプログラムといった一次情報がリアルタイムにAIへ共有されることにより、進捗、品質、リスクが自動的に可視化され、プロジェクトの状態が常に「今」の姿として把握できるようになります。
現在、プロジェクト全体を管理するうえでPM(Project Manager)の判断は必要ですが、その判断のための情報収集・分析・資料作成をPM配下のPMO(Project Management Office)やSEPG(Software Engineering Process Group)といった役割の組織が担っています。将来的にはこれらの機能そのものをAIが吸収していきます。人は「情報を集め、整える」役割から解放され、より本質的な意思決定に集中できるようになります。
このビジョンを突き詰めた先には、AIが課題の発見から是正までを一気通貫で実行する、極めて自律性の高いプロジェクト運営の姿があります。人が介在しなくても回り続けるプロジェクト管理基盤の実現は、決して遠い未来の話ではありません。
とはいえ、プロジェクト管理全体でみれば、お客さまとの合意形成やリリースの最終判断といった、人間ならではの役割は必ず残ります。しかし、管理業務の大部分をAIに委ねることで、人はより創造的で価値の高い仕事に集中できるようになります。私たちはこのソリューションを通じて、プロジェクト運営そのもののあり方を根本から変革していきたいと考えています。

後進の教育や育成についてどうお考えですか。また具体的な取り組みを教えてください。

後進の教育や育成について、私が大切にしている考え方は、「AIやツールはあくまで手段であり、目的はプロジェクト管理を進化させることにある」という点です。これまでAIソリューションについて述べてきましたが、重要なのは技術そのものではなく、それを使って現場の何を変えたいのか、どんな価値を生みたいのかという視点だと考えています。
まず後進のメンバに伝えたいのは、「今よりもっと良くできる余地はないか」と前向きに考え続ける姿勢の重要性です。日々の業務を確実に遂行することはもちろん大切ですが、それだけではプロジェクト管理の本質的な課題には辿り着けません。現場で生じる遅延や品質低下の多くは、ルールと実運用の乖離や暗黙知への依存といった構造的な要因に起因しています。だからこそ、「なぜこの問題が起きているのか」「別の視点で見ると何が見えるのか」と立ち止まって考え、課題を探し続ける習慣こそが、成長の出発点になると考えています。
この姿勢は、私自身が現在担当しているプロジェクト管理高度化のコンサルティング案件でも一貫して重視している点です。単なるツール導入にとどまらず、ヒアリングや業務観察、データ分析を通じて、課題が生まれる仕組みそのものを明らかにします。そのうえで、課題の本質に適した手法や技術を選択・適用するアプローチを取っています。また、こうした取り組みを個人の力量に依存させないために、判断観点や進め方を整理して標準化し、知見のあるメンバであれば再現できるかたちで展開してきました。
そして、こうした課題を自ら発見できることを前提として、次に重要になるのが「技術」の力です。後進の育成において技術面で重視しているのは、改善手段の「幅」と「深さ」を自ら広げていく力です。過去の成功事例は貴重な資産ですが、それに頼り過ぎると新たな課題や環境変化への対応力を失いかねません。複数の選択肢を比較し、「この現場に最も適した手段は何か」を考え抜くことで、本質的な改善につながります。技術が急速に進化・多様化している今だからこそ、特徴や限界を理解し、文脈に応じて使い分ける力が求められています。
そのため、新しい技術やツールに触れる機会づくりにも力を入れています。具体的には、全社向けの技術セミナや後進メンバとの勉強会を通じて、案件終了後の振り返りや次の改善につなげる議論を行うとともに、最新技術のキャッチアップを進めています。技術は導入して終わりではなく、現場で「使い続けられるかたち」に落とし込むことが重要であり、その取り組み自体が人材育成につながると考えています。
例えば、プロジェクト管理に利用できるツールには「Redmine(レッドマイン)*3」「Jira(ジラ)*4」「Backlog(バックログ)*5」など多くの選択肢があります。しかし、「有名だから」「社内標準だから」といった理由だけで選定してしまうと、現場の目的や制約とズレた運用になりやすいです。「なぜこの現場にはこのツールが適しているのか」を自分の言葉で説明できるようになることが重要であり、ツールの得意・不得意を整理し、背景とともに語れるようになる一連の経験が、技術理解を深める良いトレーニングになります。
近年は、プロジェクト管理ツールにもAI機能が次々と組み込まれています。すべてを1人で理解しようとすると大変ですが、メンバそれぞれが関心分野を分担して調査し、知見を持ち寄ることで効率的に学びを深めることができます。実際にツールを操作しながら検証することで理解が深まり、技術力の向上にもつながります。
後進のメンバには、技術的な専門性を「武器」として身につけることを意識してほしいと考えています。AIの進化によって自動化は確実に進みますが、その仕組みや限界を理解し、現場に適用して成果につなげられる人材の価値はむしろ高まります。AIを便利な道具で終わらせず、「なぜそう動くのか」「どこにリスクがあるのか」説明し判断できる人材が競争力の源泉です。さらに、プロジェクト管理の知見とこうした技術理解を組み合わせた「ハイブリッド人材」が組織内に一定数いることは、研究開発だけでなく事業面でも不可欠です。そのためにも、難易度の高い技術に挑戦し続ける人材を育てることが、個人の成長のみならず、組織全体の競争力向上につながると考えています。
今後も、メンバ1人ひとりが自身の強みを伸ばし、互いに学び合いながら成長できる環境を整え、現場の本質的な課題と最適な技術を結びつけることで、持続的に価値を生み出し続けていきたいと考えています。

*3 Redmine:オープンソースで提供される無料のプロジェクト管理ツールで、チームでのタスク管理、進捗状況の可視化、情報共有を効率化します。チケットシステムによるタスク管理が中心で、ガントチャート生成、Wiki機能、バージョン管理システムとの連携など豊富な機能で、ソフトウェア開発だけでなくさまざまな業務に利用され、カスタマイズ性が高いのが特徴。
*4 Jira:プロジェクト管理の効率化を図るために、世界約30万社の企業で導入しているITツール。2024年、進化を遂げてクラウドベースのSaaS型となり、日々さまざまな機能がアップデートされています。
*5 Backlog:開発だけでなくマーケティングや総務など多様な業務で利用されており、Wiki機能やGit連携など豊富な機能が特徴。

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