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2026年8月号

特集2

つくばフォーラム2026に見るアクセスネットワークの研究開発

CONNECT & SENSEによる無線アクセス研究開発

NTT研究所では、6G(第6世代移動通信システム)/IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)時代に向けて、無線通信を快適にご利用いただくための技術であるマルチ無線プロアクティブ制御技術(Cradio:クレイディオ)の検討を進めています。本稿では、Cradioにより構築する無線通信によるつながり(CONNECT)と、無線信号による環境の把握(SENSE)の検討状況を紹介し、さらに、将来の高度化に向けた研究開発技術について紹介します。

工藤 理一(くどう りいち)
NTTアクセスサービスシステム研究所

6G/IOWN 時代の無線アクセス

無線アクセスの普及が進み、今やいつでもどこでもネットワークに接続し、さまざまなアプリケーションを利用できることが当たり前になりつつあり、SNSや動画視聴など、無線信号を介したアプリケーション利用であっても、お客さまの期待する品質に満たない場合には、大きなストレスを感じるようになっています。また、端末がネットワークに接続するために、利用可能な無線アクセスも、Wi-Fi*1、WiGig*2、LTE(Long Term Evolution)*3、5G*4など、さまざまな選択肢があるほか、それぞれの無線アクセスにおいても、周波数・送信電力・ビットの送受信方法にかかわる設定など、さらに多様な設計が無線通信品質に影響しています。
無線アクセスが普及し、私たちの周りには常に無線信号があふれていますが(図1)、無線信号は目に見えないため、これら無線アクセスをどのように利用するのかが、お客さまとネットワークの間のつながり(CONNECT)を決定付けることになります。お客さまの期待する品質を満たすような、CONNECTを実現し、維持していくには、無線アクセスを高度に設計・制御していく技術が求められるようになっています。一方で、図1のように、空間を伝搬するさまざまな周波数の無線信号を、通信以外の用途でも利用する新しい取り組みも始まっています。ISAC(Integrated Sensing and Communication)*5と呼ばれる新しい技術は、通信と環境の把握(SENSE)を融合し、環境にあふれている無線信号に新たな価値を生み出す可能性があります。
NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)無線アクセスプロジェクトでは、CONNECTを支え、SENSEを可能にする、マルチ無線プロアクティブ制御技術Cradio*6の検討を進めてきました。Cradioのイメージを図2に示します。Cradioは、さまざま無線アクセスの利用環境に対し、大容量・高信頼・低遅延など、ユースケースに応じた多様な要求に対応するため、検討を進めてきた技術群の総称です。大きな機能として、無線を利用する環境に合わせて、無線アクセスを「設計」する技術、その環境で用いられる無線トラフィックや利用端末の動きに対して、無線品質を「予測・制御」する技術、無線信号を用いて物理的な環境や端末を「把握」する技術、からなります。本稿では、快適なCONNECTを実現する技術として、「設計」と「予測・制御」、SENSEに挑戦する技術として「把握」を取り上げ、紹介します。

*1 Wi-Fi:Wi-Fi Allianceに認定された無線LAN標準規格IEEE802.11の無線ネットワークであり、現在はWi-Fi 4~Wi-Fi 7までが市販されています。
*2 WiGig:主に60GHz帯の無線を用いる無線通信規格です。
*3 LTE:国際標準化団体3GPPにおいて標準化された携帯電話の通信規格です。
*4 5G:国際標準化団体3GPPにおいて標準化された第5世代移動通信システムで、「高速・大容量」「低遅延」「多数端末との接続」の特徴を持つよう進化した携帯電話の通信規格です。
*5 ISAC:通信とセンシングの機能を1つのシステム・電波で同時に統合する技術です。
*6 Cradio:設計、予測・制御、把握により、無線アクセスをより快適にお使いいただくための技術群です。

CONNECTのための研究開発

無線アクセスを当たり前のものとして使うために、もっとも重要なこととして、電波という公共の資源を利用するために国際的な調和を取りつつ、法制度を整備する必要があります。無線アクセスプロジェクトでは、国際電気通信連合の無線通信部門ITU-R(International Telecommunication Union Radiocommunication Sector)において、作業部会の議長職(WP3K Vice-Chair、WP3K 3K3 Chair、WP5C WG5C4 Chair)についており、国際的な調和の中で、快適に無線アクセスが利用できるよう、無線信号の電波伝搬なども考慮した勧告・報告の策定に貢献しています。また、広く普及している無線LAN標準規格IEEE802.11bn (Wi-Fi8として市場に登場見込み) のSecretary職も担当し、積極的に仕様策定に貢献しています。このような取り組みが、無線アクセスの快適な利用を支えています。

■設計技術

多様な選択肢から、電波環境を考慮し、無線アクセスを設計することは、快適なCONNECTを実現するための第一歩となります。Cradioの設計技術であるマルチバンド対応無線エリア設計技術は、あるエリアに無線アクセスを構築したい場合に、無線品質における目標値に対し、基地局の置局や設定に対する設計案を作成することができます。図3に、マルチバンド対応無線エリア設計技術の基本フローを示します。快適な無線アクセス環境を構築するためには、その場所における基本設定を用意します。具体的には設置する環境の3Dモデルや、無線基地局に用いるアンテナや周波数などの設定、通信エリアにおいて重視する評価点、などが挙げられます。これらの情報を基に、レイトレース技術による電波伝搬の計算を行うことができます。利用する環境におけるヒートマップや統計情報を可視化することができ、目標値を設定すると、基地局の設置位置を強化学習により最適化し、設計プランを出力することができます。複数のバンドで設備が共用されている場合において、設計プランは、置局・角度・出力等を合わせたうえで、複数のバンドで総合し最適となる設計値を選択することができます。また、得られた設計に対する目標値はスループットなどの指標で確認することができ、ユースケースに応じた品質を満たしているのか、評価することができます。
また、ここで大きな手間になる利用環境の3Dモデルも、図4に示すような3Dモデル構築技術により、低コストに作成可能です。大きく2つの構成技術があり、2DのCAD情報から、必要な情報のみを抽出したうえで3Dモデルを構築したり、簡易な点群データ作成システムにより、現地での測位情報から3Dモデルを構築したりすることもできます。この基本設定コストを下げることで、さまざまな環境でのニーズに迅速に対応することが可能です。

■予測・制御技術

CONNECTを支えているCradioの予測・制御技術としては、バンド分散技術と無線品質予測技術を紹介します。図5はモバイル網に対するバンド分散技術を示すイメージ図です。LTEや5Gでは、さまざまな周波数帯(バンド)で、基地局とスマートフォンなどの端末との間で無線通信を提供しています。端末とやり取りする無線トラフィックは年々増大しているほか、都市部や郊外地等場所属性、および通勤時間や土日祝日等時間属性によって、基地局を介してやり取りされるデータ量がダイナミックに変わります。この時、利用できる周波数はこのデータを流すための伝送路となっているのですが、その場所で利用可能な複数の周波数候補に、基地局から端末への下り通信と、端末から基地局への上り通信へのトラフィックを効率的に分配しないと、ある伝送路にデータが集中して、品質低下を引き起こします。このため、バンド分散技術では、LTEや5Gにおける無線周波数と利用可能な帯域に対し、過去のトラフィック情報の経験値を基にした制御により効率的なデータ流通を実現しました。本技術については、2026年6月にIEEE VTC2026-Spring国際会議にて報告しました(1)
もう1つの制御技術として、無線品質予測技術が挙げられます。無線品質予測技術は、自動運転車両などの途切れない無線アクセスを必要とする移動端末において、車両の移動により生じる無線通信品質の変化をあらかじめ予測し、品質の変化にプロアクティブに対応が可能となる技術です。例えば予測に基づいて、複数のネットワークのプロアクティブな切替制御、遠隔管制用の映像伝送におけるプロアクティブな映像コーデックの動的制御、通信品質劣化を回避・緩和するための加減速や走行ルート変更などの車両の走行制御などに活用できます。無線品質の予測には、機械学習モデルを用い、受信電力などの無線信号情報や基地局のIDや周波数、車両の位置などから予測モデルに入力する特徴量を生成しています。あらかじめ想定される車両の運行経路に対して事前学習を行い、機械学習モデルを生成しているほか、学習していない経路での評価や、機械学習モデルの汎化性能の向上にも取り組んでいます。無線品質予測技術は、自動運転関係の実証実験に貢献しています(2)(3)

SENSEへの挑戦

近年、無線アクセスのために送信される通信信号をセンシングにも活用するISACが注目されています。LTE、5G、そして6Gに向けた無線通信仕様の策定を担う3GPP(3rd Generation Partnership Project)では、ISACの代表的なユースケースとして、スマートホーム、スマート交通、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)、スマートシティ、スマート工場、スマートヘルス、スマートエンタテインメントなどが挙げられており、今後、多様な分野での展開が期待されています(4)。無線アクセスプロジェクトにおいても、無線信号の付加価値を高めるとともに、将来的な事業展開につなげることを目的として、センシングに関する研究開発を推進しています。
現在、ISACの中でも特に注目度の高い人体検出に着目し、実環境を想定した実証実験を実施しています。図6に、商用網のLTE基地局から送信される2GHz以下での複数の周波数を用いて、人体検出を行った実験の様子を示します(5)。本実験では、LTE基地局から送信される参照信号を一定時間観測し、得られたデータを機械学習モデルに入力することで、人体の有無を推定しました。その結果、80%以上の精度で人体検出に成功しており、既存の通信インフラから得られる無線信号が、センシング用途にも有効であることを確認しています。さらに、実証実験では、信号強度の揺らぎの情報を用いるなど、入力特徴量を拡張することで、特定の場所を通行する歩行者数のカウントにも取り組んでいます(6)。このように、単なる人体の有無の検出にとどまらず、人の動きや通行状況などのより詳細な実空間情報の取得に向けた検討を進めています。今後は、無線通信を通じて得られる情報を、物理的な現実世界の状態や変化を表す情報へと変換するための基礎技術を構築していきます。併せて、実環境における検証を継続し、具体的なサービスの創出や社会実装に向けた検討を進めていきます。

おわりに

本稿では、AS研無線アクセスプロジェクトで取り組んでいる、CONNECTとSENSEの研究開発について紹介しました。CONNECTの技術により、快適なモバイルサービスの基盤を支えるとともに、SENSEの技術により、非通信の分野でも新しい価値を生み出すため、センシング技術の検討を進めています。将来の無線アクセスネットワークが新しいつながりの基盤となり、無線アクセスだけでなく、安心・安全な社会インフラの基盤となっていけるよう、研究開発を進めていきます。

■参考文献
(1)H. Abeysekera, M. Inomata, Y. Asai, Y. Taguchi, K. Nagano, and T. Hirosue: “WATARI: A Water-Filling-InspiredCongestion-Aware Multi-Band Resource Allocationwith Uplink and Downlink Traffic Asymmetry,” VTC-spring 2026, June 2026.
(2)https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2025/1127.html
(3)https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/10/08/251008a.html
(4)https://xgmf.jp/pdf/6g-pj/Beyond-5G-White-Paper-Sensing_v1.pdf
(5)H. Otani, T. Murakami, K. Ohara, S. Otsuki, Y. Takatori, and T. Ogawa: “An Open-Source SDR-Based Device-Free Sensing Platform for Integrated Sensing and Communication (ISAC),” in IEEE Open Journal of the Communications Society, Vol. 6, pp. 9982-9990, 2025.
(6)https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/05/26/250526a.html

工藤 理一

利用が進み、より複雑になる無線アクセスを、生活の一部として快適に当たり前にお使いいただくとともに、センシングのような新たな領域にも挑戦し、ワイヤレス技術でさらに豊かな社会生活を実現するため、研究開発を進めていきます。

NTTアクセスサービスシステム研究所
無線アクセスプロジェクト

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