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2026年11月号

特集1

NTTグループのモビリティ分野における取り組み

安心・安全な自動運転社会実現に向けた「モビリティAI」の取り組み全体像

少子高齢化やドライバーの人手不足を背景に、自動運転の社会実装の加速が急務となっています。NTTグループでは安心・安全な自動運転を全国へ普及させるために、車両の高度化だけではなく、道路側のカメラなど交通環境におけるさまざまな情報を連携させることが重要と考え、ヒト・クルマ・インフラ(道路)が連携する「モビリティAI」の研究開発を進めています。本稿では、モビリティAIの考え方と実現へ向けた技術的な取り組みを紹介するとともに、NTTがめざすスマートモビリティ社会の未来像について展望します。

野見山 佳彦(のみやま よしひこ)/市原 孝浩(いちはら たかひろ)
深田 周広(ふかた ちかひろ)
NTTアライアンス部門

これまでの自動運転社会実装へ向けた取り組み

近年、自動運転技術は大きく進展し、研究開発段階から社会実装段階へと移行しており、国内ではレベル4自動運転*1に向けた制度整備、公共交通や物流分野を中心に商用化へ向けた取り組みなどが加速しています。海外においてもロボタクシーをはじめとする商用サービスの展開が進んでおり、自動運転は将来技術ではなく、現実の社会課題を解決する手段として期待が高まっています。
具体的には、少子高齢化や人口減少に伴うドライバー不足、地域交通の維持、物流需要の増加などの社会課題が挙げられ、特に地方部では、路線バスの減便や廃線が進み、高齢者をはじめとする地域住民の移動手段確保が重要な課題となっています。また、物流分野においても、労働力不足への対応と輸送効率の向上を両立することが求められています。
NTTグループでは、これらの社会課題の解決に向けて、自動運転を重要な事業領域の1つとして位置付け、これまで各地の自治体や交通事業者と連携し、さまざまな自動運転実証を行ってきました。2025年度以前の実証実績は、累計で全国60件を超え、2026年度は32都市での運行を予定しています。
こうしたNTTグループ各社が積み重ねてきた自動運転の実証知見を集約し、商用化を加速するため、2025年12月にNTTモビリティを設立しました。NTTモビリティは、自動運転車両の提供・管理、導入・運用支援、遠隔監視システムの提供という3つのサービスをワンストップで交通事業者・自治体などに提供し、より安心・安全でサステナブルな自動運転社会の実現をめざします(1)。
また、安全な走行を支援する取り組みの推進として、電柱などのインフラを活用し、車両に搭載されたセンサだけでなく、道路側のカメラやセンサから得られる情報も利用する路車協調*2(図1)により、交差点の死角や見通し外の状況を共有しています。
加えて、NTT武蔵野研究開発センタ周辺には、NTTモビリティ独自の自動運転実証フィールド「Co-Creation Hub」(図2)を整備し、車両・システムの技術検証、遠隔監視サービスの効率化、路車協調技術の検証をパートナーや地域の皆様と共に継続的に進めていきます。各地域で得られた課題や知見をCo-Creation Hubに持ち帰り、技術とサービスの改善につなげ、その成果を再び各地域へ展開することで、自動運転サービスの継続的な高度化を図ります。

*1 レベル4自動運転:特定の条件下で、システムがすべての運転操作を担う自動運転。
*2 路車協調:道路インフラと車両が情報を共有し、安全・円滑な走行を支援する仕組み。

安心・安全な自動運転社会の実現に向けた仕組み「モビリティAI」

こうした取り組みを全国へ持続的に展開していくためには、すべての地域において自動運転車両のような高度なクルマやインフラが一様に整備されることを前提とするのではなく、地域ごとの整備状況や交通環境の違いを踏まえ、ヒト・クルマ・インフラ(道路)が相互に連携し、それぞれが有する機能や情報を補完し合う仕組みへと発展させていくことが重要です。
このため、NTTではヒト・クルマ・インフラ(道路)から得られる多様な情報をAI(人工知能)によって認識・予測し、交通社会全体の安全性や利便性の向上をめざす「モビリティAI」の実現に資する研究開発を進めています。
「モビリティAI」はすべての移動が安心に包まれる、新しい安全のかたちをつくり出すコンセプトです。AIが、ヒト・クルマ・インフラ(道路)など、街全体から生まれる膨大なデータを瞬時に統合し、街全体をリアルタイムで見渡します。これにより、見えない危険を予知してドライバーへ注意喚起する、渋滞緩和をはじめとした都市全体の生活をよりスマートにするなど、社会全体の管制塔として機能することをめざします(図3)。
モビリティAIを実現するためには、生成される膨大なデータを効率的にAI処理し、その結果をヒトやクルマへ低遅延かつ切れ目なく伝達できる仕組みが必要となります。NTTは、中核技術であるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)、計算基盤、全国に広がるデジタルインフラとAIを組み合わせることで、この仕組みの実現をめざします。さらにこの仕組みを自動運転にとどまらず、自律的に動く機械を活用するあらゆる産業へ展開し、それぞれを協調させることで、安心・安全で便利な社会を支えていきます(図4)。
ここでは、モビリティAIを支える主要な技術要素として、「AI」「IOWN」「計算基盤」「デジタルインフラ」について、それぞれの特徴を概説します。
(1) AI
路側カメラや車載カメラでとらえた情報から死角を含めた道路状況をデジタルツイン上で再現し、高精度に推定した車両位置に合わせて数秒先の衝突危険性を判定、事前に通知するAIの開発を行っています(図5)。
特に、歩行者や自転車などの交通弱者については、突然の飛び出しや予期しにくい行動など、挙動の予測が難しいことから、重点的に技術開発を進めています。本特集記事『交通事故ゼロをめざすインフラカメラを用いた交通弱者の軌跡予測技術.』では、この交通弱者の軌跡予測技術について詳しく紹介します。
(2) IOWN
IOWN APN(All-Photonics Network)の低遅延・大容量・高信頼なネットワーク技術を活用し、クルマやインフラ(道路)から生成される大容量のデータを、必要な場所へ低遅延かつ安定的に伝送し、リアルタイムに処理・活用できる通信基盤の高度化を進めています。
自動運転では、車両周辺の映像やセンサ情報だけでなく、遠隔監視や路車協調に必要な情報をリアルタイムに共有することが求められます。そのため、データ量の増加や利用シーンの多様化に対応しながら、必要な情報を必要な場所へ確実に届けるネットワーク技術が重要となります(図6)。
特に、ヒト・クルマ・インフラ(道路)間の協調では、移動に伴って通信環境が刻々と変化する中でも、映像や制御情報を途切れることなく伝送することが求められます。また、将来的には複数の自動運転車両や路側設備、遠隔監視センタが広域に連携しながら運用されることも想定されており、高品質な通信基盤の重要性はさらに高まっていきます。本特集記事『自動運転の無線通信を支える協調型インフラ基盤』では、こうした通信要件を支える協調型インフラ基盤について詳しく紹介します。
(3) 計算基盤
膨大なAI処理を担う計算基盤として、ネットワーク上に分散配置されたGPUなどの計算リソースを柔軟に活用する分散型計算基盤の研究開発を進めています。IOWN APNによる低遅延・大容量通信を活用することで、地理的に離れた計算リソースを一体的に利用し、処理負荷や通信状況、データの発生場所などに応じて、必要な計算処理を適切な場所で実行できる環境の実現をめざしています。実際にNTTグループでは、全国8拠点に分散配置したGPUをIOWN APNで接続し、分散AI学習や分散AI推論*3などを検証可能な「GPU over APN Testbed」の提供も開始しています(図7)。
モビリティAIでは、この分散型計算基盤を活用し、クルマやインフラ(道路)などから得られる情報を効率的にAI処理していきます。
加えて、観測対象やクルマの移動に伴って、必要となるAI処理や、その最適な実行場所も動的に変化します。こうした変化に追随しながらAI処理を効率的に実行するため、AIの連携や配置を動的に制御する分散AI推論効率化技術にも取り組んでいます。本特集記事『Actor Modelを用いた分散AI推論効率化技術』では、この分散AI推論効率化技術について詳しく紹介します。
(4) デジタルインフラ
全国47都道府県に広がる電柱などの既存インフラを活用し、カメラやセンサを面的に配置することで、道路状況や周辺環境を広域かつ継続的に把握できるデジタルインフラの整備を進めていきます。
デジタルインフラを効率的に展開するためには、カメラの設置台数を抑えつつ、広い範囲を高精度に監視できることが重要です。そこでNTTでは、4K映像の高精細さを活かし、少ないカメラ台数で広範囲をとらえながら、リアルタイムかつ低電力でAI推論を実行できる超高精細映像AI推論LSI*4の研究開発を進めています。本特集記事『4KリアルタイムAI推論を実現する超高精細映像AI推論LSIと道路監視への応用』では、この超高精細映像AI推論LSIについて詳しく紹介します。

*3 AI推論:学習済みAIが入力データから認識・予測・判断を行う処理。
*4 LSI:多数の電子回路を1つの半導体チップ上に集積した大規模集積回路。

NTTグループが描くスマートモビリティ社会

今後、地域交通は単なる移動手段にとどまらず、人やモノの移動を通じて地域のさまざまなサービスをつなぐ社会インフラへと進化していくと考えています。その実現には、自動運転車両そのものの高度化だけでなく、通信、データ、AI、分散型計算基盤、さらにはそれらを地域に広く展開するデジタルインフラを一体として構築していくことが重要です。
NTTグループは、これらの技術を組み合わせることで、地域交通を起点として、防災、医療、物流、観光、行政などのさまざまな地域サービスと連携できる共通基盤の実現をめざします。モビリティを通じて得られるリアルタイムな情報と、地域に存在するさまざまなデータやサービスをつなぎ、ヒト・モノ・サービスが相互に協調することで、地域の暮らしや産業を支えるスマートモビリティ社会の実現に貢献していきます(図8)。
例えば、自動運転車両や路側インフラから収集される映像・位置情報・環境情報は、安全運行のためだけでなく、道路異常の早期発見、防災・減災に向けた状況把握、高齢者や子どもの見守り、物流効率化、観光地の混雑分析など、多様な分野への活用が期待されています。モビリティ分野で整備されるデジタルインフラをマルチユース化することで、地域全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支える基盤として活用することが可能になります。
また、今後は自動運転車両だけでなく、配送ロボットやドローンなどの自律移動体の活用も拡大していくことが想定されます。これらの移動体がそれぞれ独立して稼働するのではなく、AIによる認識・予測技術、通信基盤、計算基盤を共有しながら協調することで、地域全体の移動や物流の効率化、安全性向上につながることが期待されます。
さらに、モビリティから得られるデータが継続的に蓄積されることで、地域の交通状況や人流、物流の動きをデジタル空間上で把握することが可能になります。これにより、交通施策の立案、防災計画の高度化、観光施策の最適化など、自治体による街づくりへの活用も期待されています。
NTTグループは、モビリティAIを中核として、ヒト・クルマ・インフラ(道路)のみならず、多様な産業や地域サービスがデータによってつながる社会基盤の実現をめざしています。今後もAI、IOWN、計算基盤、デジタルインフラの研究開発と社会実装を進めることで、自動運転の普及を支えるとともに、安心・安全で持続可能なスマートモビリティ社会の実現に貢献していきます。

■参考文献
(1)NTTモビリティ:“NTTグループの知見を1つに束ね,自動運転を「日常に溶け込む社会インフラ」へ,” NTT技術ジャーナル,Vol.38, No.11, pp.87-90,2026.

(左から)野見山 佳彦/市原 孝浩/深田 周広

AI、IOWN、分散型計算基盤、デジタルインフラなど、NTTならではの先進技術を活用し、社会全体でより安心で安全な自動運転を実現するための研究開発に取り組んでいます。

NTT研究開発マーケティング本部
アライアンス部門
モビリティビジネス担当

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