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from NTT西日本

IOWN構想の実現に向けたNTT西日本R&Dセンタ / IOWN推進室における研究開発の取り組み

NTT西日本は「ソーシャルICT パイオニア」として、社会を取り巻く環境変化がもたらすさまざまな課題に対し、ICT を用して解決する先駆者として社会の発展に貢献し、地域から愛され、信頼される企業に変革し続けることをめざしています。今後はSociety 5.0をはじめ、社会の情報化がますます加速し、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)といった技術が今以上に生活シーンに取り入れられ、人々のライフスタイルが大きく変革していくことが想定されます。ここでは、そのような時代を見据え、NTT西日本R&Dセンタ/IOWN推進室で取り組んでいる研究開発の事例について紹介します。

クラウドゲーミングエッジ

eスポーツとは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指します。近年ではeスポーツの大会で賞金を稼ぐなど、ゲームをプレイすることで生計を立てるようなプロプレイヤーが登場しています。また、2022年に開催されるアジア競技大会の正式競技種目に採用されるなど、eスポーツの注目度が高まっています。一方で、eスポーツを始める際、快適にプレイできる環境を用意しようとすると、高価なゲーミングPCを準備する必要があり、初期投資がかかることがeスポーツ普及の障壁の1つとなっています。ほかにも、ゲームが健康面に及ぼす影響が危惧されていることも課題となっています。
そこでNTT西日本では、eスポーツに興味があるエントリー層を主要ターゲットとし、気軽にeスポーツができる環境の構築と、健康増進や地域コミュニケーション機会の創出など、地域活性化に向けた活用事例の開拓に取り組んできました。具体的には、熊本の公立高校や兵庫の高齢者施設に対して、高価なゲーミングPCを必要とせず、既存の安価なPCやタブレット端末からGPU(Graphics Processing Unit)サーバに遠隔で接続することで気軽に低遅延でゲームがプレイできる環境を構築しました。この環境は、NTT西日本のネットワーク上に設置したGPUサーバでゲームの高精細な画像を高速に処理し、手元のPCに処理後の映像を転送するゲーミングエッジ技術*で実現しています。また、プレイ時のプレイデータやバイタルデータ等を一緒に取得して、ヘルスケア領域への効果検討に向けた実証実験などを実施しています(図1)。

* プレーヤー近傍のNTT西日本通信ビル内に設置したGPUサーバを活用する技術。

遠隔医療分野におけるエッジコンピューティング技術の活用

NTT西日本では、西日本エリアの各地に展開している通信ビルや通信設備を最大限活用した、よりセキュアで高品質のクラウドサービスを提供可能なエッジコンピューティング技術の検討を進めており、株式会社T-ICUとの共同により、医療現場における共同実証実験を実施しています。実証実験に協力をいただいている病院からNTT西日本の閉域ネットワークを介してサーバが設置されているエッジコンピューティング拠点まで映像を転送しています。そして、エッジコンピューティング拠点のサーバ上で情報処理を行い、モニタリングセンタからの医師・看護師などによる遠隔モニタリングを実現しています(図2)。このように遠隔で患者をモニタリングすることにより、患者と医師が接触する機会を減らすことで、新型コロナウイルス感染症患者受け入れ病院等での医療従事者への感染防止策としても有効となります。また、患者の容態変化の兆候に関して、AI(人工知能)による推論が実現可能か評価を実施しています。患者の容態変化の兆候を早期に把握し、医師の駆け付けや緊急処置の必要性の判断にAI技術を活用することで、医師の業務負担を軽減し、医師不足が懸念されている昨今の医療現場において、医師の稼働削減につながると考えています。

葉物野菜におけるドローンセンシングを活用した生育状況の把握

国内農業は、農業就業人口の減少により、少数の大規模農家が多数の圃場を管理して生産を行うかたちに移行しつつあります。そして、大規模農家では、少ない労働力で効率的に広大な圃場を管理し、高品質な農作物の安定的な栽培を実現していくかが重要な課題となっています。しかし、複数の圃場からなる広大な圃場では、耕作エリアごとの条件差を踏まえた栽培管理が難しく、作物の生育状況にばらつきが生じ、安定的な生産を行うことが難しいという問題があります。そこで、NTT西日本グループでは、スマート10xにおけるスマートアグリ分野で、ドローンソリューション、クラウド基盤および愛媛大学が開発した低コストで導入できる圃場分析技術を組み合わせた農作物の育成状況を分析する仕組みを構築し、圃場の分析・評価結果に基づく施肥による、生産量と品質の安定化をめざした実証実験を実施しています(図3)。具体的には、圃場を廉価な汎用ドローンで空撮し、その俯瞰画像データからSPAD値と呼ばれる植物の葉の葉緑素含有量の分析を行います。葉緑素の推定濃度から生育状況を可視化し、生育状況に基づき、必要な個所に必要な量を施肥する可変施肥を行うことで、生育、品質のばらつきの抑制をめざし、収益性に優れた営農手法の確立をめざしています。

セキュアなデータ流通

昨今、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会ニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務、プロセス等を変革し競争上の優位性を確立するデジタルトランスフォーメーション(DX)が普及しつつあります。しかし、重要なデータについては「どのようにすれば安全に活用できるのか」「何をもって安全といえるのか」といったデータを扱う際の方法や判断の難しさがあり、活用には慎重になっているのが現状です。また、これらのデータは重要であるがゆえに、ユーザのプライベート環境に保管されることが多く、データを活用することが困難となっています。NTT西日本は、重要なデータを扱う際の難しさを解決し、クラウド上でも安全にデータ管理・活用するシステム(セキュアなデータ流通・分析基盤)の開発に取り組んでいます。「セキュアなデータ流通・分析基盤」を実現することで、さらなるデータ活用の発展をめざしています。信頼性を担保しながら重要なデータ流通させるには、①データを安全に流通させる技術、②データを適切に加工する技術、③セキュアな環境でデータを分析する技術等を実装することが求められており、これら各技術要素の検証、評価に取り組んでいます。①は、企業間・組織間で合意した条件に基づいてデータを相互に共有する技術です。本技術により、保存、加工、可視化等の各工程で利用するデータにおいて事前合意した条件による授受が可能となります。データ利用に向けたデータ授受を安全に行うために必要な技術要素となります。②は、個人情報を含むデータに対して匿名加工を行う技術です。データ内の一部情報を匿名加工することでデータ活用に使用可能なデータへと変換します。③は、データ提供者、分析者間で互いのデータ内容、アルゴリズムを知られることなくデータ分析を可能とする技術です。さまざまな分野のデータ収集、分析が想定される中、データ所有者、アルゴリズム所有者の安全性を高めるために必要な技術要素となります。今後、これらの各技術要素をシステムとして実装することで「セキュアなデータ流通・分析基盤」の実現をめざします。そして、本基盤の活用により、各分野のDXを加速させ社会課題の解決に貢献していきます。

問い合わせ先

NTT西日本
技術革新部 IOWN推進室
TEL  06-6490-1008
E-mail soukatsu-iown@west.ntt.co.jp