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2025年6月号

特集

NTTグループの一次産業分野の取り組み

地域食品資源循環ソリューションの新たな取り組み

NTT西日本グループは地球のサステナビリティを支えるために、生活の重要インフラである通信サービスを提供する企業としての使命に加えて、今までにないサービスを生み出す挑戦を続けています。NTTビジネスソリューションズではIoT(Internet of Things)、AI(人工知能)などのICTの活用により食農分野において地域の未来を耕すというコンセプトで、世界一といわれている日本の食品ロスについて、これを削減するという社会課題を解決し、社会貢献を果たしたいという想いを持って「地域食品資源循環ソリューション」を2019年より提供しています。本稿では、ソリューションの概要、IoT(重量センサ)を活用した発酵状態の可視化、生産技術の高度化、可変施肥技術および資源循環ビジネス拡大に向けた水資源循環事業の取り組みを紹介します。

中山 実(なかやま まこと)/中西 文洋(なかにし ふみひろ)
入戸野 晃子(にっとの あきこ)/松岡 侑(まつおか たすく)
NTTビジネスソリューションズ

地域食品資源循環ソリューション

「地域食品資源循環ソリューション」は、食品加工工場、青果市場やスーパーマーケットなどの食品関連事業者が、これまで廃棄していた食品残渣(生ごみ)を発酵分解装置(フォースターズ)にて一次発酵*1させ、リサイクルセンタ*2にて二次発酵*3をさせることで堆肥*4化し、地域の農業関係者に堆肥を提供していくことで新たな農作物を生み出す、食品リサイクルの「輪」を形成する取り組みです(1)(図1)。食品関連事業者のもとで発生した食品残渣をゴミではなく資源ととらえ直し、高品質な植物由来の堆肥へと価値変換し、お客さまの廃棄量、廃棄コストおよびCO2の排出も大幅に(環境省とのLCAアセスメントで52%減)削減し、循環型社会を実現します。
本ソリューションの発酵分解装置は全国ですでに600台を超える導入が進んでおり1日に発酵分解している食品残渣は300 tを超えています。事業が大規模化するにしたがい事業の内部DX(デジタルトランスフォーメーション)として「装置内の発酵状態可視化」「発酵物の効率的収集運搬」「大量の発酵物より高品質堆肥・肥料を生産」、堆肥・肥料をご使用いただくため、農業関係者に向けて「堆肥・肥料成分に基づいた効率的な施肥支援」を行うことが事業にて持続的に収益を上げるためのKey Success Factorとなってきます。今回は地域食品資源循環ソリューションの取り組みについて紹介します。

*1 一次発酵:地域食品資源循環ソリューションの機器設置拠点で行われる、生ごみを堆肥へ一次変換する発酵行程。1週間で、投入した食品残渣が約7分の1まで分解され熟成されます。
*2 リサイクルセンタ:地域食品資源循環ソリューションの堆肥製造を行う拠点。多くは堆肥を利用する農家と連携して運用しています。
*3 二次発酵:リサイクルセンタにて、一次発酵物をさらに約2カ月再発酵する行程。資材の追加により水分、窒素・炭素比などを調整し、70 ℃近い発酵温度まで上げます。
*4 堆肥:化学物質でできている肥料に対して、蓄糞など有機物を中心とした肥料。土がカチカチになったものを改善するような土壌改良に利用することや、ゆっくりと肥料効果を出したい(遅効性)場合に利用します。

装置内の発酵状態可視化

食品関連事業者から排出される野菜などの食品残渣を発酵分解装置に投入すると、非常に優れた機能を発揮する微生物の力により発酵・分解が始まります。約24時間で10分の1に分解縮小し、さらに約1週間程度で20分の1程度となり、堆肥の原料となる一次発酵物が生成されます。この一次発酵物を装置からおおむね週に1回、回収し北海道から沖縄まで全国30カ所ほどあるリサイクルセンタにて3カ月から1年かけて、高品質な堆肥・肥料を生産します。
装置内では、投入された食物残渣は時間の経過とともに水とCO2に分解していきますが、12月のクリスマスシーズンは大量のサラダが消費されカット野菜等の食品残渣が増えるなど、お客さまの投入される食物残渣の種類や量によって、発酵分解が想定より早く進むケースや非常に遅くなるケースがあります。また、毎週同じ回収タイミングでも出来上がる一次発酵物の品質や量に差があるなど、最終的に生産する堆肥の品質低下や計画回収前に装置に発酵物が溢れてしまう等、効率的に回収ができない、追加コストがかかってしまう等の課題があります。
これらの課題に対し、発酵分解装置の庫内で発生している重量の変化をIoT(Internet of Things)デバイスであるロードセル*5を用いた重量センサを実装し(図2)、5G(第5世代移動通信システム)に接続した通信デバイスにてデータをクラウド上に送信し、蓄積することで装置内の一次発酵物の重量を可視化し、時間の経過とともに徐々に分解し減量していく推移を確認することができ(図3)、重量データを基にAI(人工知能)にて各装置の発酵物品質の推定も行っています。
これらの情報により、一次発酵物の回収担当者は各装置内の発酵物がどのタイミングで回収に必要な量に達するか等の情報を得ることができ、個々の装置の状況を考慮した効率的なタイミングや最短の回収ルートを組むことにより、回収稼働の大幅削減を進めています。また、発酵状態が悪い場合には減量が進まないことから、AIでの分析結果により発酵不良が起きていると判断した装置には、定期以外の回収を行うことや、発酵が適正化できるように食品残渣の投入量をコントロールしています。

*5 ロードセル:装置にどれだけ荷重がかかっているかを数値化するセンサ。装置の四隅に設置して荷重の合計値を基に装置の重量を測定します。

堆肥発酵分解技術の高度化

リサイクルセンタへ持ち込まれた一次発酵物は、独自のレシピ(CNBMテクノロジ)に基づきC:炭素資材(ウッドチップ、バーク、枯草)、N:窒素資材(一次発酵物、米ぬか、家畜糞)、B:微生物資材(落ち葉)、M:ミネラル資材(粘土鉱物)等を一定配合にて加え仕込みます。野菜や果物をベースにした一次発酵物は含水率が80%程度と非常に高く、仕込み時の水分率の調整が品質の良い堆肥をつくポイントになるため、水分センサ等により水分率を確認し、二次発酵として微生物(好気性菌*6)がもっとも活発に活動できる水分率(50~60%)に調整し、温度確認を行いながら、60℃以上の発酵温度を数週間維持し、農作物育成の阻害となる病原菌や種子等を死滅させていきます。
堆肥の発酵を促進させる際の堆肥の積み上げ方にも重要な技術があり、縦横3mから4m、高さ1.5m程度の山形に積み上げます。これにより堆肥の底部側面から空気が入り、山の上部に抜ける流れを発生させ、通気性が確保されることで好気性発酵*7が促進され、短時間で高温の発酵状態に遷移します。これ以上堆肥の山が大きくなると、山の内部の圧力が高くなり圧密化し、嫌気発酵となる可能性が高くなりますので、非常に注意して管理する部分となります。積み上げた堆肥は発酵段階により、鉄などのミネラル資材の追加と水分調整を行いながら数日間から2週間単位にてホイールローダによる切り返し(堆肥の山をまんべんなくかき混ぜ再度山に積み直す作業)を行います。これを繰り返し約6~9カ月で二次発酵が完了します。有機物が完全に分解されていない中熟堆肥*8を要望される農業法人向けにはこの段階で堆肥を提供します。三次発酵*9は、完熟工程で、有機物の分解がさらに進み無機化していく過程であり、約1年かけ堆肥がほぼ気温と同じになるまで管理を続けると、非常に高品質な完熟堆肥*10が完成します。
上記の堆肥生産の工程にて、堆肥の発酵状態、空気の流れや熟度の判断(中熟か完熟か)などについては赤外線カメラを用い、色によって分かりやすく可視化した温度データによって、発酵状態や熟度等を判断し、加水を行ったり、副資材を追加したりというアクションをとりながら日々堆肥生産を進めています。

*6 好気性菌:空気を好む菌類、有機物をエサとして活発に活動し高く発熱する菌が多いのが特徴です。
*7 好気性発酵:空気を好む好気性菌による有機物の発酵分解、発熱により水分を蒸散させつつ発酵するのが特徴です。腐敗臭のような鼻をつく臭いは少ないです。
*8 中熟堆肥:2~3カ月の熟成を行った、まだ有機物が残り、微生物分解途中の堆肥です。畑に中熟堆肥を施肥し、土の中で発酵分解させて利用する技術もあります。
*9 三次発酵:二次発酵した堆肥を、さらに6カ月以上かけて高品質堆肥にしていく行程です。70 ℃近い温度が徐々に低下し、外気温近い温度まで下がり完成します。
*10 完熟堆肥:半年から1年近く熟成を行った、非常に高品質な堆肥のこと。

圃場空撮データによる効率的な施肥

昨今の海外製肥料の高騰などを受け、国内での有機資源を元にした堆肥・肥料の活用が注目されています。また、食物残渣由来の植物性堆肥は珍しく、繊維質が多く蓄糞の混ざらないという堆肥の特徴をうまく活かした、こだわりの野菜を生産される農家に喜んで使っていただいています。
これらの堆肥の効率的な活用技術についても、岡山県で大規模にレタスを生産している農業法人「青空」や愛媛大学と活用実証を行いました。
多くの農家では圃場の中において一部の農作物の生育の偏りにより、収穫効率の低下、収穫作業の非効率性および納品計画に支障が出る問題を抱えています。これは、農作物の生産にあたり、圃場における水はけの良い個所や悪い個所、長年にわたる堆肥や肥料の施用により土壌の栄養素(窒素、リン酸、カリウム、微量要素)にムラや偏りが発生するためです。
この問題に対し、愛媛大学が保有する独自のSPAD値分析技術を用いて、NTT西日本グループのドローンで撮影した圃場の航空写真データに対してAI変換処理を行うことで、生育が早いエリアと遅いエリアを色で可視化して分別することができる、生育分布データを生成しました(図4)。この生成されたデータを基に、圃場内で生育の遅い個所に限定して、堆肥・肥料を適切な量を使用する「可変施肥*11」が可能となり、圃場内での生育の偏りの解消を実現しました。
実際の農業法人の意見としても、「圃場の特性が分かりやすく把握できた、堆肥を用いた土づくりに非常に役に立つ」「各圃場の収量予測にも使え、日々の出荷計画が立てやすくなった」「堆肥の使用量を必要最低限に抑えられることで費用削減もできた」等、非常に高い評価を得ています。
また、この生育分布データからもう1段階深い知見を得るために、面的な分析ではなく、レタス1株ずつをAIで区別し、生育レベルの評価を行う方法にもチャレンジしています。このAIを使って1カ月後の生育状態を推測することで、収量予測の実現が可能となります。現在、実現に向けてさらなる検討を進めています。

*11 可変施肥:一般的に肥料や堆肥は畑前面に散布して利用することが多いですが、栄養素が足りていない部分に必要なだけ肥料・堆肥を散布する技術です。作業量の軽減や肥料・堆肥コストの軽減を実現できます。

食品リサイクルビジネス多角化の取り組み

「地域食品資源循環ソリューション」を利用いただく中で、食品残渣以外の資源循環にかかわるお困りの声を食品関連事業者の皆様から数多くいただいています。特に産業排水(水資源循環:排水・汚泥*12の処理)にかかる処理性能やコストや課題の相談が多くあり、この課題を解決し産業排水の再利用と汚泥削減およびサーキュラーエコノミーを実現する、酵素循環式排水処理システムのトライアルを開始しています(図5)。
本システムは産業排水処理で多く利用されている従来の活性汚泥法の処理過程に、有機物の分解を促進する酵素資材を投入し、設備内に循環させるシステムであり、本システムを使って処理性能を向上させることで、事業者様を悩ませる余剰汚泥を従来比の最大1割程度(パートナー会社実績によるもので、原水質により削減率は異なります)に大幅削減します。
本システムは、新設はもとより、お客さまが保有する既存の排水処理設備に追加増設、あるいは既存設備を改良することで導入が可能になります。循環させる酵素の働きにより、前述した余剰汚泥の処理コスト削減だけでなく、排水処理過程で使用されることが多いpH調整剤や凝集剤といった薬品も不要になる場合が多く、各種薬品費のコスト削減も可能です。これは無薬注での処理を可能にし、排出される汚泥についても安全かつ再資源化により適したものとなります。
こうして最終的に排水処理過程で分解されず残った余剰汚泥はリン酸の含有率が高く、要件を満たすものは肥料や飼料として活用することで有機資源を地域内にて循環させます(図6)。また、人による管理が当たり前とされている排水処理設備において、画像認識AIを用いた設備の遠隔管理や、排水処理に必要なエネルギー量の最適化など、NTTグループが持つICTを活用することで、効率的な排水処理を実現すべく、現在開発に取り組んでいます。

*12 汚泥:工場などの排水を処理する除害設備にて、微生物が有機物を食べて残った微生物の死骸が多くを占めます。これらは時間とともに堆積していくので、定期的に回収し処分する必要があります。

おわりに

多くの食品関連事業者様、農業法人の皆様が参加する地域食品資源循環ソリューションは、全国各地に広がっており、食品残渣を回収・リサイクルするため、全国に20拠点を超えるリサイクルセンタを設けています。これまで生産していた農業法人向けに堆肥のみならず、一般消費者向けの堆肥・肥料のホームセンター等を通じた販売、エコフィードと呼ばれる食品残渣を用いた畜産向けの飼料、一次発酵物をミールワーム*13等昆虫の餌にすることで昆虫自体を水産飼料化、また昆虫の搾油を使ったバイオディーゼルの生産等をIoT、AIを使った可視化、生産効率化や自動化を適用し、今後も幅広い資源循環ビジネスに取り組んでいく予定です。これらの事業は私たちだけで創出できるものではないため、NTTグループ内外のアライアンスパートナーを募集しています。事業に興味がありましたら、問い合わせ先までご連絡いただければと思います。一緒に循環型社会をつくっていきましょう。

*13 ミールワーム:飼育動物の餌にするために、飼育や増殖された幼虫の総称。非常にタンパク質が豊富であり、次世代の飼料・エネルギー原料として注目されています。

■参考文献
(1) https://www.nttbizsol.jp/service/foodwaste-recyclingsolution/

(左から)中山 実/中西 文洋/入戸野 晃子/松岡 侑

NTTビジネスソリューションズでは、食の資源循環の実現に向けてこれまでNTTグループ内外の会社とのアライアンスを通じてビジネスを拡大してきましたが、これからは提供するソリューションの範囲を拡大し、食だけではなく幅広い資源循環による地域経済の活性化の実現をめざしていきます。

NTTビジネスソリューションズ
バリューデザイン部
ソーシャルイノベーション部門

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