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特集

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SmartInfraプラットフォームの取り組みについて

SmartInfraプラットフォームはデジタルトランスフォーメーション(DX)によりインフラ設備に関する業務を効率化することを目的に進めているプロジェクトです。インフラ設備の中で地中に埋設されている設備を対象に高精度な位置情報(絶対位置)を付与したデジタルツインの地中版を整備し、インフラ事業者間で情報共有を図ることで、今まで人が実施していた業務をデジタル化して類似業務を一元化するなど、マンパワーもシェアリングできるモデルの実現をめざすとともに、地上のデジタルツインを加えて防災・減災、スマートシティなどの分野へ展開を図りたいと考えています。

高木 洋一郎(たかぎ よういちろう)
NTTインフラネット 担当部長

取り組みの背景

インフラ設備の老朽化・技術者の減少に加えて、コロナ禍での仕事のあり方などを考慮し、インフラ系業務についてもスマート化による社会構造の変化が必要な状況となっています。
NTTグループのインフラ設備が建設ピークから40~60年経過している状況に加えて、社員の年齢分布をみてもその状況は明らかです(図1)。
そうした社会課題に対してインフラ事業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、「データのシェアリング」によりさまざまなデジタルデータを活用して業務の効率化を進めるとともに、マンパワーや技術についてもシェアリングするなどさらなる効率化を追求することで対応していけるのではないかと考えています。

SmartInfra構想

SmartInfra構想(図2)として高精度な位置情報を用いて、インフラ設備がどこに、どのような状況で存在するのかをデジタル化して共有できる仕組みを構築するとともに可視化することでスキルレスを推進し、通信・電力・ガスなどのインフラ種別に対応した業務を一元化することが可能になると考えています。
将来的には、地下埋設物の状態を予測し最適なアクションの実施を可能にしたいと考えています。
具体的には、高精度な3次元空間情報をベースに、各インフラ事業者が保有する設備データに高精度な3次元位置を付与し、情報が共有できる仕組みを構築するとともに、今まで担当者が頭の中でイメージしていた情報の3次元化を可視化することで機械的な計算処理を可能とし、設計・施工~メンテナンスまでを効率的に実施できる環境を構築します。
また、高精度に3次元化された設備情報をインフラ事業者間で共有することで業務をシェアリングするなど効率化を推進できると考えています。
この仕組みは地下インフラだけでなく、地上に存在するインフラ設備へも適用領域を拡大できます。
さらに、NTTグループの4Dデジタル基盤™を活用しBIM/CIM(Building/Con­struc­tion Information Modeling、 Man­age­ment)データとの流通を通じて街づくり・都市開発などのスマートシティや動的情報と連携させMaaS(Mobility as a Service)などのモビリティ分野など外部データとの連携も推進しNTTグループのビジネス拡大に貢献したいと考えています。

SmartInfraプラットフォームのユースケース

インフラ事業での効率化ユースケースとしては、当面以下の4つをテーマとして取り組むこととしています。
・埋設物照会の一元受付・1次回答
・現地確認・立会時の設備可視化
・共同施工の積極的な提案
・設備劣化予測に基づく計画保全

■最初のユースケースとして

埋設物の照会受付から立会については、現状では各社がバラバラに受け付けて、それぞれの設備状況を確認し影響の有無を判断し必要に応じて現地で立会を行っていますが、SmartInfraプラットフォームを用いて高精度な位置情報を付与し自動判定精度を向上させることで、従来影響ありとしていたものが影響なしと判定できる可能性が高くなり、設備への影響について図面等を確認する作業が省力化できます(図3)。
さらに影響がある場合には申請者に来社してもらい施工協議を実施していますが、将来は3次元の仮想空間を活用しリモートでの施工協議が実現できると考えています(図4)。
立会についても、自社の設備だけでも地中の状況を可視化することで危険予知や判断力の向上に寄与でき、さらに電力・ガス・通信をまとめて立会するなど業務の一元化による効果が期待できます。将来はリモート施工協議と同様にリモートでの立会や指示ができるような取り組みにもつなげていきたいと考えています(図5)。
共同施工については、現状でも取り組まれていますが、まだまだ個々の事業者が個別工事として繰返し道路を掘削・埋め戻しを行うケースが多く、工事期間も長期化している状況です。これがあらかじめ地下空間の状況を共有できていると共同施工の調整も早期に取り組むことができるため、共同施工の実施率向上につながり、道路を掘削・埋め戻す工程を最小限にできるなど工事費削減および工事期間の短縮化に寄与できると考えています。
最後に、設備劣化予測については今後の取り組みとなりますが、地下に埋設した設備は掘り起こしてみないと状況が確認できないため不具合が発生した段階で保全対応を取らざるを得ませんが、土質や地下水の状況などを考慮して設備状況の将来を予測することで、予防保全が可能となります。こうした設備劣化予測を活用して効率的かつ効果的な保全計画の策定に向けて取り組む予定です。

高精度3D空間情報

インフラ事業をターゲットとして考えた高精度3D空間情報は、インフラ設備の位置合わせに必要なデータを整備することとし、具体的には「道路縁」「道路と歩道の境界:歩道縁」「中央分離帯などの分離帯」、これにMH(マンホール)/HH(ハンドホール)や地下出入口を整備し、位置情報を持つさまざまなデータに対して正確な位置に補正できるような位置基準データとして整備しています。
整備するデータは位置基準として活用するため高精度な位置情報が必須となりますので地図情報レベル500*の精度基準に基づき(位置情報誤差が標準偏差で±25cm)整備しています(図6)。
整備手法としては、地上解像度5cmの高分解の航空写真を用いて、前述した道路縁やMH等を取得していきます。今回の東京23区は、航空写真を用いたステレオ図化やデジタイズというオペレータによる手作業で整備してきたところですが、今後は今回整備した東京23区の高精度3D空間情報を教師データとして、AI(人工知能)による自動データ取得についても並行して取り組んでいます。
なかなかハードルの高い取り組みですが、AIによる自動化が実現できると大幅なコスト削減が可能となるため、ベンチャーからグループ会社、研究所などさまざまな方々と実現に向けて取り組んでいます。

*地図情報レベル500:地形図データの位置精度が水平位置の標準偏差0.25m以内、標高点の標準偏差0.25m以内。

国土交通省との実証事業

2019年度、国土交通省関東地方整備局の取り組みとして横浜市のみなとみらいから関内の辺りを地上も地下も3D化し、業務の効率化や安全にどのように寄与できるのか、コンサルティングを実施しました(図7)。
地下空間のデータ整備は、東京電力や東京ガス、横浜市水道局から埋設物のデータを提供していただき3次元化を行いましたが、各社で管理されている図面はそれぞれの位置情報で管理されているため設備が重なり合ったりすることや、現実には起こり得ない状況が再現されるなど、位置情報を高精度化する重要性について確認できました。
位置情報を高精度化した地下空間の3Dは設備相互の位置関係も明確になり、道路掘削時の影響範囲も明らかにすることができるため、安全で効率的な工事につなげることができるという評価をさせていただきました。

今後の予定

2020年12月から自社DXとして地下に埋設された通信設備を対象とした埋設物受付から影響有無の自動判定、現地立会を支援する地下空間の可視化機能をサービス開始しました。2021年度には高精度3D空間情報の整備を拡大し自社DX範囲を広げるとともに、他社DXとして自社DX向けに提供した機能を電力会社、ガス会社にも提供する予定です。
また、東京23区で整備した高精度3D空間情報は、上空から撮影した航空写真を利用していますので撮影できない高架下の道路などはデータ取得できていません。こうした個所はMMS(Mobile Mapping System)等を用いて地上から高精度な計測を行う必要があります。
さらに、道路が密集しているような都市部では航空写真が有効ですが、郊外など道路の密集度が低いエリアはMMSによるデータ取得がコスト的に優位になりますのでMMSによるデータ取得についてもAI等を活用した効率的なデータ整備、MMS自体についても精度や品質を維持しつつ、低コストな機材へ置き換えることができるような研究開発を、NTT研究所と連携して進めています。

問い合わせ先

NTTインフラネット
SmartInfra推進部 プラットフォーム戦略担当
TEL 03-5829-5270
E-mail si_pf_info@nttinf.co.jp