2026年2月号
特集
PEC-2を搭載した大容量・低消費電力な光電融合スイッチ
- IOWN
- 光電融合
- DCI
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network) 2.0 では、ネットワークの消費電力を大幅に削減可能な光電融合技術として、PEC(Photonics-Electronics Convergence)-2の実用化をめざしています。本稿では、これまでの光電融合技術の進化を紹介するとともに、コンピューティング領域への適用に向けて開発を進めているPEC-2の技術について解説します。また、コンピューティングインターコネクトとして活用すべく研究開発を進めている、PEC-2を搭載した光電融合スイッチと大阪・関西万博での活用事例を紹介し、商用化に向けた今後の展開について述べます。
村中 勇介(むらなか ゆうすけ)/伊藤 猛(いとう つよし)
有川 勇輝(ありかわ ゆうき)/妹尾 和則(せのお かずのり)
NTTデバイスイノベーションセンタ
光通信と光電融合技術
NTTでは長年にわたり、通信インフラの高度化を目的として、伝送路の光化を進めてきました。光信号は電気信号に比べて伝送中のエネルギー損失が極めて小さく、減衰を抑えながら遠距離まで安定的に届けられるという大きな利点があります。この特性を最大限活用するため、光通信システムでは光トランシーバと呼ばれるデバイスが重要な役割を担っています。光トランシーバは、電気信号を光信号へ、またその逆に変換するインタフェースとして機能し、情報処理装置と光ネットワークをつなぐ要となるデバイスです。
光トランシーバを用いた光伝送は、これまで主に長距離通信を中心に活用されてきましたが、近年ではデータセンタ内の短距離通信にも適用範囲が広がっています。サーバ間で大量のデータが往来する現在のデータセンタでは、電気信号だけでの伝送では消費電力面で限界が見え始めており、短距離領域でも光伝送の利点が注目されています。今後は、より短距離なデータ伝送にも光技術を適用することで、新たな性能向上が期待されます。
このような背景のもと、NTTでは電気による情報処理と光による伝送を統合する光電融合技術に注力しています。光電融合は、光通信システム全体の消費電力低減に寄与し、NTTが提唱する次世代ネットワーク構想IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の実現に向けた中核技術として位置付けられています。
NTTの光電融合技術
光電融合技術とは、電子回路と光回路を一体化し、光トランシーバ機能をより小型・高効率なかたちで集積化する技術です。NTTはこの技術を用いて開発したデバイス群をPEC(Photonics-Electronics Convergence)デバイスと総称し、IOWN構想に合わせて段階的に実用化してきました。
図1にNTTのPECデバイスのロードマップを示します。IOWN 1.0 では、2023年より商用サービスが開始されたAPN(All-Photonics Network)において、PEC-1を活用したデジタルコヒーレント光トランシーバを導入しました。これは既存の光ネットワークに比べ高効率で安定した長距離伝送を可能にするもので、IOWNの基盤となる通信品質の向上に寄与しています。
さらにIOWN 2.0 に対してはネットワーク領域だけでなく、より大規模なデータ処理が行われるコンピューティング領域でも光電融合技術を活用すべく研究開発を進めてきました。データセンタではデータ通信量が急速に増えており、電力消費は大きな課題となっています。そこで短距離接続向けの低電力なPEC-2を用いて低消費電力・大容量のインターコネクトを構築し、IOWN 2.0 のコンピューティング基盤を支える技術の実用化を進めています。
その後、将来のIOWN 3.0以降に向けてはさらに小型かつ低消費電力なPEC-3や PEC-4として、半導体パッケージ間やパッケージ内といったコンピュータ内部の領域へと光接続を拡張し、コンピュータアーキテクチャそのものの革新をめざしています。

光電融合技術のコンピューティング応用
AI(人工知能)の急速な発展は、これまでにない規模のデータ生成と演算需要を生み出し、世界中のデータセンタが扱う情報量は指数関数的に増加しています。高い計算性能を実現するためには大量の電力が必要となるため、現在ではデータセンタの電力消費は世界的な課題として議論されるほど深刻化しています。
特に問題となっているのが、取り扱うデータ量の増大と合わせて半導体の性能向上が進み、データ伝送にかかる電力が大幅に上昇している点です。従来のコンピューティングシステムでは、データは電気信号のままサーバ間やラック間を伝送する仕組みが基本でした。しかし、AI開発や大規模分散処理の普及により、通信距離が以前より長くなり、伝送されるデータ量そのものも拡大しているため、電気伝送は限界に近づいています。
電気信号によるデータ伝送は、信号周波数が高くなるほど、また伝送距離が長くなるほど消費電力が急速に増えてしまいます。これは、電気伝送の物理的制約による避けられない特性です。その結果、今後さらに高い信号周波数で伝送するデータ量が増えることを考えると、電力消費の増大は避けられない問題として浮上しています。
そこで注目されているのが、電気のまま伝送する方式を光伝送へ置き換える光電融合技術です。光伝送は高周波信号を低損失で長距離伝送できるため、電気伝送で問題となる消費電力の急増を抑えることができます。光を用いた伝送を活用することで、電力消費を劇的に抑えながら高性能な計算環境を維持できる可能性があり、世界的にも大きな期待が寄せられています(1)(2)。
光電融合技術は単に省電力化を実現するだけでなく、通信性能を底上げし、結果としてコンピューティング全体の能力を引き上げる重要な鍵となっています。
光電融合技術を活用したコンピュータアーキテクチャ
現在のコンピューティングシステムでは、要求される性能の上昇に対して演算を行う半導体性能がついていけず、単一のサーバ筐体にGPU等の高性能リソースを詰め込む従来の設計思想では、需要にこたえきれなくなりつつあります。AIトレーニングや大規模データ処理では、複数のサーバ間で膨大なデータをやり取りする必要が生じるため、サーバ内部とサーバ間で通信特性が大きく異なることが新たなボトルネックとなっています。
サーバ間のネットワークは、内部バスに比べて遅延も大きく、電力効率も低いため、サーバ内部と同じ感覚でリソースを扱うことは困難です。その結果、従来のアーキテクチャでは、サーバ内部に多種多様な計算リソースを搭載し、高性能化を図らざるを得ませんでした。しかし、このアーキテクチャはコスト・消費電力・冗長性のすべての点で非効率です。
こうした課題を解決するアーキテクチャとして、図2に示すような光ディスアグリゲーテッドコンピュータを提案しています。これは、光電融合技術によってサーバ筐体の垣根を越えて計算リソースを高速・低遅延に接続し、まるで1つの大きなコンピュータのように扱える仕組みです(3)。
このアーキテクチャでは、リソースをサーバ単位ではなくプール単位で管理し、計算タスクに応じて最適なアクセラレータやメモリを柔軟に組み合わせることができます。また、アクセラレータは汎用目的である必要がなく、用途特化型の回路を集中的に活用できるため、高性能かつ効率的な計算処理を実現できます。
実現には、リソース間で膨大なデータをやり取りする必要があるため、大容量・低遅延・低消費電力を兼ね備えた光インターコネクトが不可欠であり、ここに光電融合技術の価値が最大限発揮されます。

PEC-2世代の光電融合技術
光電融合技術の実装形態として注目されているのが、OIF(Optical Internetworking Forum)において標準化が議論されてきたCPO(Co-Packaged Optics)技術です。CPOは半導体ICと光トランシーバを近接実装することで、従来のトランシーバ方式で必須だった長距離の高速電気配線を大幅に削減し、信号損失や電力増大の課題を根底から解決するアプローチです。NTTが研究開発を進めるPEC-2においてもこのCPO技術を採用しています。
OIFが公開した3.2Tbit/s CPOの実装仕様(IA: Implementation Agreement)では、51.2Tbit/sクラスのイーサネットスイッチへの適用が想定されています(4)。これは、スイッチチップ近傍に複数のCPOモジュールを並べて実装し、電気配線の距離を極限まで縮めることで、高密度かつ低消費電力の大容量スイッチを実現するという考え方に基づいています。
図3に従来のスイッチ構成とCPOを活用したスイッチ構成の比較を示します。従来のスイッチ構成では、フロントパネルにプラガブル型トランシーバを装着する構造が主流であり、スイッチチップからトランシーバまでの電気配線で大きな電力を消費するため高速化の妨げとなっていました。
これに対してCPOでは、スイッチチップ直近で電気信号と光信号の変換を行うため、装置内部に光配線を広く取り入れることができ、同じ大容量を扱う場合でも電力を大幅に削減できます。
現在、OIFの仕様を基にしたCPOを活用したイーサネットスイッチ装置は複数のベンダで開発が進められ、次世代のネットワーク装置の標準形態として実用化が加速しています。

PEC-2搭載光電融合スイッチ試作機の実現と万博活用
NTTのPEC-2の研究開発においても、OIF規格に準拠した3.2Tbit/s CPOの形態を基にデバイス技術の確立を進めてきました。PEC-2では、シリコンフォトニクス技術を用いて変調器や受信器を高密度に集積し、DSP(Digital Signal Processor)による高度な信号処理により、電気信号と光信号の効率的な変換を可能にしています。
1台のPEC-2当り32チャネル、合計3.2Tbit/sの帯域を実現でき、100Gbit/s PAM4信号に対応しています。光インタフェースにはOIF準拠の光ファイバピグテイルを用いており、1モジュールで400GBASE-DR4規格8チャネル分の出力を提供できます。
図4にPEC-2と同等の帯域を実現するために必要な従来のプラガブルトランシーバとの比較を示します。PEC-2は1台で3.2Tbit/sの帯域を持つため、400 Gのプラガブルトランシーバ8台分に相当します。モジュールの大きさを比較すると、PEC-2によって87%の削減が可能となります。また、PEC-2はOIF規格で定められた消費電力の最大値を満たすため、消費電力12 Wの従来プラガブルトランシーバ8台分に比べて、50%削減した48 Wで実現可能となります。
今回このPEC-2を搭載した「光電融合スイッチ」の試作機を作製しました。51.2Tbit/sのスループットを持つスイッチチップ近傍にPEC-2を実装することで、イーサネットフレームを転送するスイッチ装置が実現できました。図5に示すようにNTTはこのスイッチを19インチラックに収容できるサイズで試作し、空冷に加え水冷を取り入れた効率的な冷却設計によって、高発熱のスイッチチップやPEC-2を安定動作させています。
フロントパネルには16心MPOコネクタを採用し、1コネクタ当り400GBASE-DR4規格を2チャネルを収容します。合計64コネクタで51.2Tbit/sを実現し、コンパクトかつ高密度な実装が可能となりました。また、400GBASE-DR4に加え、100GBASE-DRへのブレイクアウトにも対応できます。
この光電融合スイッチ試作機は効率的な冷却機構と多心のMPOコネクタを用いた高密度なフロントパネルの光インタフェースにより、大容量なイーサネットスイッチ装置でありながら、2RU(Rack Unit)という極めて小型なサイズで装置を実現しました。
さらにNTTが試作した光電融合スイッチ試作機は、光ディスアグリゲーテッドコンピュータのコンピューティングインターコネクトとして実際のシステムの一部に組み込まれ活用されました。
2025年4月13日から10月13日にかけて開催された大阪・関西万博において、NTTはパビリオンを出展しその中でIOWN光コンピューティングとして、光ディスアグリゲーテッドコンピュータのアーキテクチャを採用したコンピューティングによるサービスを提供しました(図6)。会場内に設置された多数のカメラ映像をリアルタイムでAI分析し、その結果をパビリオンの展示に活用するという取り組みです。万博に関する内容については、本特集記事『IOWN 2.0時代の社会実装に向けた取り組み』に詳細が説明されています。
このシステムの中で、光電融合スイッチ試作機は膨大な映像データを複数のGPUアクセラレータへ効率的に振り分ける役割を担いました。万博期間の6カ月にわたり安定運用を完遂したことで、PEC-2を含む光電融合技術が実サービス環境における有用性を備えていることが示されました。



PEC-2搭載光電融合スイッチの商用化に向けて
万博に活用した光電融合スイッチ試作機は、OIF規格に準拠したCPO構成を活用しましたが、商用化に向けてさらなる高性能化を実現すべく研究開発を進めています。従来のイーサネットスイッチでは光トランシーバを装置のフロントパネルにて挿抜するプラガブルトランシーバを採用していたため、ユーザの手で交換できることから故障時の修理が容易でした。一方でCPO構成では、従来の光トランシーバに相当するPEC-2が装置内部のスイッチチップ近傍に半田付けで実装されているため、交換が容易ではありません。メンテナンスに際して装置を停止し、分解したうえでのデバイス交換が必要なため、修理コスト・運用コストがかかります。そこでNTTイノベーティブデバイスではCPO構成としてスイッチチップに直接実装できる形態をとりながら、プラガブルトランシーバのように付け外しができる実装形態(ソケット型実装)を提案し、実用化を進めています(図7)。さらに基本特性である通信容量の拡大と大幅な消費電力の低減を進めており、6.4Tbit/sのPEC-2を実現し102.4Tbit/sのスイッチチップに実装することで、従来のプラガブルトランシーバを使用したスイッチ装置と比較して50%の電力削減を実現すべく開発に取り組んでいます。
上述の性能向上を実現したPEC-2の商用版については、2026年にサンプルを提供できるよう検討を進めています。

今後の展開
本稿では、コンピューティング適用に向けて検討を進めている光電融合技術について紹介しました。NTTは光通信の強みを活かし、電気処理と光伝送を融合する光電融合技術を用いたデバイスの研究開発を進めています。これらの技術をPECデバイスとして体系化し、IOWN 1.0ではAPNにPEC-1を導入しました。さらにIOWN 2.0からは、光電融合技術の適用範囲をコンピューティング領域へと拡大していきます。まずはPEC-2による低消費電力・大容量インターコネクトの研究開発を推進し、将来はパッケージ内部まで光接続を拡張するPEC-3やPEC-4によって、コンピュータアーキテクチャそのものの革新をめざします。PEC-2の実用化に向けては、OIF規格に準拠した3.2Tbit/sのPEC-2を搭載した光電融合スイッチ試作機を開発し、大阪・関西万博で実運用することで、その有効性を確認しました。今後もPEC-2のさらなる高性能化に向けて研究開発を進め、商用化に取り組んでいきます。
■参考文献
(1) https://journal.ntt.co.jp/article/35349
(2) https://journal.ntt.co.jp/article/36078
(3) https://journal.ntt.co.jp/article/33807
(4) https://www.oiforum.com/wp-content/uploads/OIF-Co-Packaging-3.2T-Module-01.0.pdf

(左から)村中 勇介/伊藤 猛/有川 勇輝/妹尾 和則

光電融合技術はネットワークの消費電力を削減できる技術です。この光電融合技術を用いて、電力問題を解決する革新的なコンピューティングを実現すべく、研究開発を進めていきます。